アートリエ編集部がアール・デコについて詳しく解説します。アール・デコは、1920年代から1930年代にかけて世界的に流行した芸術様式で、幾何学的なデザインや洗練された装飾が特徴です。
建築やインテリア、絵画やファッションなど幅広い分野に影響を与えたアール・デコは、モダンで華やかな美しさで今もなお人気があります。
そんなアール・デコですが、「アールヌーヴォーとどう違うの?」「有名な画家は?」と思う方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、アール・デコについて詳しく解説し、アールヌーヴォーとの違いや有名画家とその代表作も併せて紹介します。
この記事を読めばアール・デコの魅力や特徴が理解できるので、デザインやアートに興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
アール・デコとは?
出典:ルーヴルアンティーク
そもそもアール・デコとはどのような芸術様式なのでしょうか。ここではアール・デコの特徴や使用されている素材を紹介します。
アール・デコの意味と特徴
アール・デコとは、1920年代から1930年代にかけて発展した装飾美術様式です。直線的で幾何学的なデザインや対称性を重視しており、モダンで洗練された印象で人気を集めました。
アール・デコが生まれた背景には、それまで流行していたアールヌーヴォーが影響しています。アールヌーヴォーは曲線を多用しており、手工芸的な要素が強かったため、大量生産には向いていませんでした。
一方で、アール・デコは工業化の進展とともに、機能性と合理性を重視したデザインとして確立されました。
アール・デコの名称は、1925年にパリで開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(Exposition Internationale des Arts Decoratifs et Industriels modernes)」に由来しているといわれています。
アール・デコに使われた素材
アール・デコの機能性と装飾美を兼ね備えたデザインを支えたのは、使用された素材の多様性です。アール・デコで使用された素材は、下記のとおりです。
- 金属
- ガラス
- 木材とラッカー
- プラスチック
- 大理石
- エキゾチックな石材
これらの素材は、工業化の進展とともに現れた新しい価値観と、時代のテクノロジーを反映しています。アール・デコが今日でも魅力的なスタイルであり続けられるのは、多様な素材にあるといえるでしょう。
アール・デコとアールヌーヴォーの違い
出典:Euphoric
アールヌーヴォーは1880年代から1914年ごろまでの芸術運動で、有機的なデザインが特徴です。自然界の植物や昆虫、女性の流れるような髪などをモチーフにし、曲線を多用した装飾が施されました。
一方で、アール・デコは1920〜30年代に隆盛し、幾何学的なデザインや工業的な美しさが特徴です。直線やジグザグ模様、放射状のパターンを取り入れ、モダンで洗練されたスタイルを確立しました。
このことから、アールヌーヴォーは曲線的、アール・デコは直線的な点がそれぞれの違いといえるでしょう。アールヌーヴォーに関して詳しく知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。
【わかりやすく解説】アールヌーヴォーとは何か?その特徴と代表的な画家・作品をご紹介
アール・デコのインテリア
出典:アート買取協会
アール・デコのインテリアは、直線的なデザインと幾何学模様を組み合わせた、洗練されたスタイルが特徴です。家具や装飾は直線的なフォルムが中心ですが、曲線を適度に取り入れ、優雅さも演出されています。
カラーはモノトーンをベースにシルバーやゴールド、ラベンダーの組み合わせで、エレガントで洗練された印象が魅力的です。
アール・デコのインテリアは直線と装飾のバランス、上品な色彩や個性的なアイテムを取り入れると完成するでしょう。
アール・デコのファッション
出典:ルーヴルアンティーク
アール・デコはファッションにおいても、直線的で洗練されたデザインが特徴的です。スタイルは、それまでのコルセットで曲線美を強調するファッションとは異なり、ローウエストで膝丈のストレートシルエットが主流となりました。
アール・デコにおいてはジャポニスムの影響を受けた直線的なデザインや、キュビスムの幾何学的な要素が取り入れられています。
また、リボンやフリルなどの過剰な装飾をなくした、シンプルなデザインも特徴の1つです。
アール・デコの絵画における有名画家
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ここでは、アール・デコで有名な画家を5人紹介します。
エルテ(1892-1990)
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アール・デコを代表する芸術家のエルテ(Erte)は、「非現実の美」にこだわった幻想的な世界観が特徴です。本名はロマン・ド・ティルトフ(Romain de Tirtoff)といい、ロシアの貴族の家系に生まれています。
しかし、芸術を好まない家族への配慮から「エルテ」の名で活動していたそうです。エルテは20歳でパリに渡り、ファッション雑誌の表紙デザインを手がけたことで、ファッション業界にも大きな影響を与えました。
タマラ・ド・レンピッカ(1898年ごろ-1980)
出典:ルーヴルアンティーク
タマラ・ド・レンピッカ(Tamara de Lempicka)は、アールデコを代表する画家で、独特の画風と生き方で、20世紀の美術史に名を刻みました。
ポーランドの上流階級に生まれたタマラは、ロシア革命を機にパリへ亡命し、画家としての才能を開花させます。幾何学的なフォルムと鮮やかな色彩でスタイルを確立したタマラは、パリの社交界でスターとなり、多くの貴族や著名人の肖像画を手がけました。
代表作には愛娘を描いた「キゼットとタマラ」や、モダンな女性像を表現した「オートクチュールの貴婦人」などがあります。
アドルフ・ムーロン・カッサンドル(1901-1968)
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アドルフ・ムーロン・カッサンドル(Adolphe Mouron Cassandre)は、ポスターアートで革新をもたらしたアール・デコ時代を代表するグラフィックデザイナー兼画家です。
カッサンドルは、幾何学的な構成と大胆なタイポグラフィを特徴とし、当時の広告デザインに大きな影響を与えました。
代表作にはアール・デコにおけるポスターで最も有名といわれる、フランスの豪華客船「ノルマンディー号」があります。
ジャン・デュパ(1882-1964)
出典:WIKIART
ジャン・デュパ(Jean Théodore Dupas)は、アールデコ時代を代表するフランスの画家兼デザイナーです。新古典主義とアールヌーヴォーのスタイルを確立したデュパは、洗練された装飾的な作風で広く知られています。
また、大規模な壁画やポスター制作に優れており、当時のモダンな美意識を象徴する作品を数多く残しています。デュパは1910年にローマ賞を受賞し、1925年のパリ国際装飾美術博覧会では代表作の「レ・ペルーシュ」を発表し、高い評価を得ました。
ゲルダ・ヴィーグナー(1886-1940)
出典:WIKIART
ゲルダ・ヴィーグナー(Gerda Wegener)は、アール・デコの時代において、ジェンダーとセクシュアリティに挑戦したデンマークの画家です。ゲルダの作品は、当時の社会の枠を超えて、愛や性別の境界を問い直すものとして注目されました。
作品はアール・デコとアールヌーヴォーのスタイルを取り入れた、洗練された女性像の描写が特徴です。女性の魅力や自信に満ちた姿勢を描き、芸術や文学、ダンスなどさまざまな芸術的表現を反映させました。
アール・デコ絵画の代表作
出典:Euphoric
アール・デコの代表作を6作品見ていきましょう。
私の肖像画
出典:WIKIART
タマラ・ド・レンピッカの代表作「私の肖像画」は、アール・デコのスタイルを象徴する作品として有名です。ファッショナブルな茶色のドライビンググローブと、エレガントなヘルメットに似た帽子を身に着けた姿を描いています。
この作品は、男性の視線を逆手に取るような、女性としての自信と自由を表現しています。作品の中の冷静で力強い視線で見つめる女性は、男性が描く視覚的な女性像に対する挑戦を感じられるでしょう。
ギターを持つ青い女性
出典:WIKIART
タマラ・ド・レンピッカの「ギターを持つ青い女性」は、タマラの風俗画の中でも現代的で官能的な女性像を描いた作品です。女性がギターを持ちながら音楽に没頭する姿が描かれていますが、音楽が美しい黒髪の女性として擬人化されています。
音楽を象徴的に描きつつ、タマラらしい現代的なアプローチもみせています。タマラの作品は、時代の流れを反映した現代女性像を鮮やかに表現している点が特徴です。
キゼット
出典:WIKIART
タマラ・ド・レンピッカの「キゼット」は、タマラの娘が描かれた肖像画の中でも、印象深い作品といわれています。この絵は、キゼットが白っぽいピンクの衣装で全身を包み、片方の足に靴を履かずもう一方の足で隠そうとする姿が描かれました。
キゼットのぎこちない姿勢は、ロシア正教会のイコン「ティフヴィンのテオトコス」への言及として解釈されることもあります。タマラの作品「キゼット」は、キュビズム的な形態やアールデコの影響を感じさせる、幾何学的な背景が特徴の作品です。
ノルマンディー号
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アドルフ・ムーロン・カッサンドルによる「ノルマンディー号」のポスターは、アール・デコの象徴的な作品です。このポスターは、1935年5月29日に出港した豪華客船ノルマンディー号の、大西洋横断記録更新を伝える作品です。
最速の客船としてブルーリボンを獲得した、ノルマンディー号の歴史的な瞬間を捉えています。ノルマンディー号は、ニューヨークとフランス間の航海で、平均速度約29.94ノット(時速約55 km)を記録し、従来の記録を大幅に短縮しました。
ボモーネ
出典:WIKIART
ジャン・デュパによる1923年の肖像画「ボモーネ」は、アール・デコスタイルで描かれた美しい作品です。弟子であり友人のマルグリット・グラン(Mlle Marguerite Grain)の姿を描いたといわれています。シンプルかつ洗練されたラインが特徴です。
ボルドー
出典:WIKIART
1937年にジャン・デュパが制作した「ボルドー」は、アール・デコのスタイルを象徴する作品です。シンプルで洗練されたデザインが特徴的で、視覚的なインパクトを与えます。
日本でみられるアール・デコ
出典:Euphoric
アール・デコの作品は、日本でも楽しめます。ここからは、日本でみられるアール・デコを紹介します。
東京都庭園美術館(朝香宮邸)
出典:東京都庭園美術館
1933年に竣工した東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)は、アール・デコ建築の代表作として高く評価されています。建築は宮内省内匠寮が設計し、フランス人芸術家アンリ・ラパンらと協力して完成しました。
様式美が反映されたこの邸宅は、朝香宮夫妻のアール・デコへの深い熱意が込められています。外観は直線的で幾何学的なデザインを基調とし、シンプルでありながら装飾的な要素がアクセントとなっています。
大阪府庁舎
出典:大阪府庁舎
大阪府庁舎は、アール・デコと歴史的様式が融合した独特の建築物で、府内最古の現役府庁舎として重要な存在です。外観は全体的に無装飾ですが、玄関ポーチやエレベーターホールにみられるケルト模様など、ロマネスク様式の影響が感じられます。
特に注目すべきは、壮麗な大シャンデリアと豪華な大理石で飾られた階段ホールです。アール・デコの洗練されたデザインと古典的な要素が見事に調和しています。
府庁舎の内部は、新古典主義様式が基盤となり、ロマネスクが部分的に混在している点も特徴的です。
聖路加国際病院
出典:聖路加国際病院
聖路加国際病院は、1902年にアメリカ人の宣教師、ルドルフ・トイスラーによって創設されました。現在の建物は著名な建築家アントニン・レーモンドによって設計されています。
十字架の尖塔をシンボルにしたネオゴシック様式を基調とし、アールデコ調の装飾が施されました。宗教的な要素が強調されており、病院内には礼拝堂も併設されているのが特徴です。十字架の尖塔により、米軍の空爆から免れ、歴史的にも価値のある建物となっています。
まとめ
この記事では、アール・デコについて詳しく解説しました。アール・デコは、1920年代から1930年代にかけて流行した芸術的なスタイルで、シンプルで洗練された幾何学的なデザインが特徴です。
アールヌーヴォーが曲線を重視するのに対し、アール・デコは直線や鋭角を多く用い、より現代的でモダンな印象を与えています。また、アール・デコは工業デザインや大量生産が影響を与えたため、機能性と美しさのバランスが重要視されました。
この記事を参考に、アール・デコの特徴や代表的な作品を理解し、その美しいデザインを楽しんでください。
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