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2025.05.07

フォーヴィスムとは?特徴やキュビズムとの違い、代表的な画家と作品を解説

フォーヴィスムとは?特徴やキュビズムとの違い、代表的な画家と作品を解説

アートリエ編集部がフォーヴィスムについて詳しく解説します。

フォーヴィスムは、20世紀初頭のフランスで誕生した絵画運動で、鮮やかな色彩と大胆な表現で知られています。そんなフォーヴィスムですが、「どんな画家がいるの?」「キュビズムとの違いは?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、フォーヴィスムの特徴やキュビズムとの違いについて詳しく解説します。また、フォーヴィスムの代表的な画家と作品を紹介します。

この記事を読めばフォーヴィスムについて理解ができるので、美術史に興味がある方は、ぜひ参考にしてみてください。

フォーヴィスムとは

音楽(アンドレ・ドラン)

出典:Wikiart

ここでは、フォーヴィスムの成り立ちや特徴を詳しく解説します。

フォーヴィスムはフランスの絵画運動

フォーヴィスムは、20世紀初頭のフランスで誕生した革新的な絵画運動です。フォーヴィスムは1905年のパリ秋季展で注目を集め、マティスやアンドレ・ドランといった画家たちが中心となりました。

展示を見た美術批評家のルイ・ヴォークセルが「まるで野獣(フォーヴ)の檻の中にいるようだ」と評したことは有名です。このことから、この芸術運動は「フォーヴィスム」と呼ばれるようになりました。

フォーヴィスムには概念や理想などがなく、芸術運動らしい動きは少なかったようです。そのため、活動期間は1905年~1908年ごろまでの3年程度と短く、その後画家たちはキュビスムや切り絵などそれぞれの方向へ向かいました。

フォーヴィスムの特徴

フォーヴィスムの最大の特徴は、色彩の大胆さです。画家たちは自然な色合いに縛られることなく、自由に色を使うことで、感情や内面の印象を表現しました。また、陰影を排除し、鮮やかな平面構成で画面を構築する点も特徴的です。

構図においては輪郭線がくっきりと描かれ、形や奥行きは意図的に単純化されており、色彩が主役となる作品が多くみられます。このようなスタイルは、従来の伝統的なアカデミズムに対する挑戦であり、後の表現主義や現代アートにも影響を与えました。

フォーヴィスムとキュビズムの違い

フォーヴィスムが「色」を主軸に置いていたのに対し、キュビズムは「形」の構築を主としていました。

フォーヴィスムは色彩を通して感情や直感を表現することを重視し、視覚的インパクトを与える色使いが特徴的です。キュビズムは、対象を幾何学的に分解・再構成することで、物体の構造や多面的な視点を探求します。

フォーヴィスムとキュビズムは、ともに20世紀初頭のフランスで生まれた前衛的な芸術運動ですが、そのアプローチはまったく異なります。

キュビズムについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。

フォーヴィスムと日本の近代洋画

フォーヴィスムは、日本の近代洋画にも大きな影響を与えました。20世紀初頭にヨーロッパへ渡った日本の画家たちは、フォーヴィスムに影響を受けた者も多くいました。

帰国後はフォーヴィスム的な表現を取り入れ、日本独自の色彩感覚と融合させて新たな表現を生み出します。大正時代には、斎藤与里をはじめとした「フュウザン会」の画家たちが、フォーヴィスムの影響がみられる作品を展示しました。

また、パリに留学していた里見勝蔵や佐伯祐三などの画家も、フォーヴィスムの影響を受けた絵画を展示しています。

フォーヴィスムで有名な画家と代表作

コリウールインテリア(マティス)

出典:Wikiart

ここからは、フォーヴィスムで有名な画家と、それぞれの代表作を紹介します。紹介する画家は、以下の6名です。

  • アンリ・マティス
  • ラウル・デュフィ
  • アンドレ・ドラン
  • ジョルジュ・ブラック
  • キース・ヴァン・ドンゲン
  • モーリス・ド・ヴラマンク

それぞれ詳しく解説します。

アンリ・マティス(Henri Matisse)

アンリ・マティス

出典:Wikimedia commons

アンリ・マティス(1869–1954)は、フォーヴィスムの創始者の1人で、運動の象徴的存在です。1905年のパリ秋季展で発表した「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」や「赤い部屋(赤のハーモニー)」などの作品で注目を集めました。

マティスの絵画は、鮮やかな原色と平面的な構成を特徴としています。マティスにとって色は感情を表現する手段で、視覚的な美しさよりも、内面の表現を追求しました。

そのスタイルはフォーヴィスムの本質を体現しており、後の現代美術にも大きな影響を与えています。

ダンス

ダンス

出典:Wikipedia

「ダンス(La Danse)」は、1909年に制作された代表作の1つです。裸の人物が手をつなぎ、輪になって踊る様子が描かれており、生命の歓喜やエネルギーが表現されています。

マティスの絵画は、鮮やかな原色と平面的な構成を特徴としています。マティスにとって色は感情を表現する手段で、視覚的な美しさよりも、内面の表現を追求しました。

そのスタイルはフォーヴィスムの本質を体現しており、後の現代美術にも大きな影響を与えています。

赤い部屋(赤のハーモニー)

赤い部屋

出典:Wikipedia

「赤い部屋(The Dessert: Harmony in Red)」は、1908年に制作された代表的なフォーヴィスム作品です。室内が描かれたこの作品は赤一色で統一されており、壁やテーブルクロスに至るまでが一体化し、平面的な構成となっています。

室内には果物や花、椅子などが描かれていますが遠近感や陰影は排除され、装飾的なパターンが強調された作品です。現在は、エルミタージュ美術館に所蔵されています。

アンリ・マティスについては、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。

ラウル・デュフィ(Raoul Dufy)

ラウル・デュフィ

出典:Wikimedia commons

ラウル・デュフィ(1877–1953)は、鮮やかな色彩と軽やかな筆致で知られるフランスの画家です。デュフィは、フォーヴィスムの画家としても重要な位置にいる人物でもあります。

フォーヴィスム初期にはマティスの影響を受け、自由な色使いと装飾的な構図で注目を集めました。代表作には「電気の精」や「マルティーグのボート」などがあり、日常の情景や音楽、港の風景などを明るく親しみやすいタッチで描きました。

後年にはテキスタイルデザインや壁画制作にも携わり、その作風は工芸や商業デザインの分野にも広がっています。

電気の精

電気の精

出典:Musée d’Art moderne de Paris

「電気の精(La Fée Électricité)」は、ラウル・デュフィが1937年に制作した大規模な壁画作品です。「電気の精」には、電気の歴史とその発展に貢献した科学者や哲学者、技術者が108名描かれています。

サイズは全長約60メートル・高さ10メートルにおよび、およそ1年かけて制作されました。作品は右から左へと時間が流れる構成で、発見の神「電気の精」を中心に、科学の進歩が詩的に描かれています。現在は、パリ市立近代美術館にて常設展示されています。

マルティーグのボート(Boats at Martigues)

マルティーグのボート

出典:Wikiart

「マルティーグのボート(Boats at Martigues)」は、1908年に制作された作品で、南フランスの港町マルティーグを描いた風景画です。この作品はフォーヴィスムの影響が色濃く表れており、港に浮かぶボートや水面、建物などが自由な構成で表現されています。

マティスの色彩理論から影響を受けたとされるデュフィは、自然を忠実に再現するのではなく、感覚的・主観的に再構築する手法を試みていました。「マルティーグのボート」はその象徴的な作品であり、フォーヴィスム期の代表作として高く評価されています。

アンドレ・ドラン(Andre Derain)

アンドレ・ドラン

出典:Wikimedia commons

アンドレ・ドラン(1880–1954)は、フランス出身の画家で、フォーヴィスムを代表する画家の1人です。代表作に「チャリングクロス橋」「コリウールのボート」があります。

ドランは自然の風景を鮮烈な色彩と自由な筆致で描き、写実とは異なる表現を追求しました。また、ゴーギャンやゴッホの影響を受けつつ、彫刻や書籍の挿絵など幅広い分野でも活躍しています。

フォーヴィスムの時代を象徴する存在として、ドランの芸術は現在も高く評価されています。

チャリングクロス橋

チャリングクロス橋

出典:NationalGallaryArt

「チャリングクロス橋(Charing Cross Bridge)」は、1906年に制作された代表作の1つで、ロンドンを訪れた際の風景シリーズに含まれます。この作品は、テムズ川と橋の景観が明るく大胆な色彩と、単純化された形で描かれました。

遠近法や写実性には重きを置かず、視覚的な印象と色彩のリズムが強調されており、空や水面には紫やオレンジなど非現実的な色も用いられています。

印象派の画家クロード・モネと同じ場所が描かれているため比較されることも多いようですが、色彩を用いた独自のアプローチが高く評価されています。

コリウールのボート(Boats at Collioure)

コリウールのボート

出典:Wikiart

「コリウールのボート(Boats at Collioure)」は、1905年に南フランスの港町コリウールで制作された代表作の1つです。コリウールはドランやマティスなど、画家たちに人気があり、よく訪れていた漁村だといわれています。

作品にはボートや海、人物が単純化された形で表現されており、実際の色彩から離れた自由な色使いが特徴的です。「コリウールのボート」は、フォーヴィスムの色彩理論と解放的な表現の好例として評価されています。

ジョルジュ・ブラック(Georges Braque)

ジョルジュ・ブラック

出典:Wikipedia

ジョルジュ・ブラック(1882–1963)は、フランス出身の画家です。初期には印象派の影響が色濃い作風でしたが、マティスやドランの影響を受け、フォーヴィスムの画家として活動していました。

このころのブラックは、鮮やかな色彩と力強い筆致を特徴とする風景画を、多く制作しています。しかし、色彩表現にとどまらず次第に形態の分析へと関心を移し、1908年以降はピカソとともにキュビズムの創始者となりました。

ブラックはフォーヴィスムを重要な出発点としながらも、20世紀美術の大きな転換点に立ち会った画家として評価されています。

木のうしろの家

木のうしろの家

出典:The Metropolitan Museum of Art

「木のうしろの家(House behind Trees )」は、1906年に制作された、フォーヴィスム時代の作品です。この絵画は、アントワープ近郊の風景をモチーフにしており、木々や家々が力強い筆致と鮮やかな色彩で表現されています。

ブラウンやグリーン、オレンジなどの豊かな色使いが画面に躍動感を与えており、自然の印象を主観的かつ大胆に再構築しています。

この時期のブラックはマティスやドランから強い影響を受けており、本作は彼のフォーヴィスム期の代表的な風景画として知られている作品です。

ジョルジュ・ブラックについては、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

キース・ヴァン・ドンゲン(Kees Van Dongen)

キース・ヴァン・ドンゲン

出典:Wikimedia commons

キース・ヴァン・ドンゲン(1877–1968)は、オランダ出身でフランスを中心に活躍したフォーヴィスムの画家です。ヴァン・ドンゲンは1905年サロン・ドートンヌに参加し、マティスやドランの影響を受け、フォーヴィスムへと傾向していきました。

作風は女性像を得意とし、強烈な色彩と誇張された表情、装飾的な衣装で描かれた肖像画は独特の雰囲気を放ちます。ヴァン・ドンゲンは受賞歴もあり、1926年にレジオンドヌール勲章、1927年にベルギー王冠勲章を受章しました。

「青い目の女性」

青い目の女性

出典:Wikiart

「ポピー」

ポピー

出典:Wikiart

モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck)

モーリス・ド・ヴラマンク(右)とアンドレ・ドラン

出典:Wikipedia(右:モーリス・ド・ヴラマンク)

モーリス・ド・ヴラマンク(1876–1958)は、フランス出身の画家で、マティスやドランとともにフォーヴィスムを形成した重要人物の1人です。1900年ごろにドランと出会い、共同でアトリエを開いたことがきっかけとなり、本格的に絵画制作に取り組みました。

彼の作風は、激しい筆致と大胆な色彩が特徴で、風景画においては強烈な印象を与えます。フォーヴィスム時代の代表作には「シャトゥーの風景」があり、後にポール・セザンヌの影響を受けてより構築的なスタイルへと移行しました。

ヴラマンクの作品には、多くの日本人画家が影響を受けている、人気の高い画家です。

「The River Seine at Chatou」

The River Seine at Chatou

出典:The Metropolitan Museum of Art

「Barges on the Seine」

Barges on the Seine

出典:Wikipedia

フォーヴィスムに影響を与えた画家

寝室(フィンセント・ファン・ゴッホ)

出典:ファン・ゴッホ美術館

フォーヴィスムに影響を与えた画家は、以下の3人といわれています。

  • フィンセント・ファン・ゴッホ
  • ポール・ゴーギャン
  • ギュスターヴ・モロー

1人ずつ詳しくみていきましょう。

フィンセント・ファン・ゴッホ

出典:Wikipedia

ゴッホは、感情を色彩で表現する手法を確立した画家で、フォーヴィスムの誕生に多大な影響を与えています。フォーヴィスムの画家たちはゴッホの「星月夜」や「ひまわり」など、鮮やかな色彩と激しい筆致に強い刺激を受けました。

特に、マティスはゴッホの作品に強く共鳴し、自らの色彩理論に活かしたとされています。ゴッホの内面的な感情や印象を色と線で表現するスタイルは、フォーヴィスムの「色で感情を描く」スタイルへと継承されています。

ゴッホについては、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。

ポール・ゴーギャン

ポール・ゴーギャン

出典:Wikipedia

ポール・ゴーギャンは、フォーヴィスムに色彩と構成の自由さをもたらした、フランスの画家です。ゴーギャンは写実を重視する印象派とは異なり、内面の感情や精神性を表現するために、装飾的で鮮やかな色彩や平面的な構図を多用しました。

ゴッホと9週間ほど共同生活もしており、芸術観でかみ合わず言い争いますが、手紙のやり取りは続けていたとされています。代表作には「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」「タヒチの女たち」などがあります。

ギュスターヴ・モロー

ギュスターヴ・モロー

出典:Wikipedia

ギュスターヴ・モローは、象徴主義を代表するフランスの画家です。モローはパリ国立美術学校「エコール・デ・ボザール」でマティスやジョルジュ・ルオーらを指導した経緯があります。

「自らの個性を尊重せよ」という教えを強調しており、弟子たちの個性を尊重しながら才能を伸ばしました。写実よりも創造性と精神性を重んじる教育方針が、フォーヴィスムの自由な表現に大きな影響を与えたとされています。

実際にモローのアトリエには多くの弟子たちが集まり、彼の寛容な姿勢が新しい芸術の出発点となったようです。

まとめ

2つの取っ手が付いた花瓶(マティス)

出典:Wikiart

この記事では、フォーヴィスムと代表的な画家、有名な作品について詳しく解説しました。
フォーヴィスムは、感情を色彩で表現する革新的な絵画運動で、マティスやドランをはじめとする画家たちによって発展しました。

キュビズムとの違いは、色へのこだわりか、形へのこだわりかが大きいでしょう。中には、浮世絵を愛したゴッホの影響を受けた画家も、多く存在します。また、フォーヴィスムは日本の画家たちにも影響を与え、日本ならではの色で表現されました。

この記事を参考に、フォーヴィスムの魅力や美術史における位置づけを深く理解し、芸術鑑賞をより豊かなものにしましょう。

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