こんにちは、アートリエ編集部です。今回は、版画技法の一つであるシルクスクリーンの世界を見ていきましょう。
シルクスクリーンは、アートから商業印刷まで幅広く利用されていることをご存知ですか?そこで今回は、シルクスクリーンとはどのようなものか、制作プロセスはどうなっているのか、さらには代表的なアーティストについて詳しく解説します。
シルクスクリーンの歴史や技法について学びながら、世界観を味わっていきましょう。
シルクスクリーンとは
シルクスクリーンは、版画の技法の一つです。
細かい網目状のスクリーンを使用してインクを押し出し、デザインを紙や布、プラスチックなどのさまざまな素材に転写する方法です。スクリーンの一部を防水材で塞ぎ、インクが通る部分だけを残すことで、特定のデザインがそのまま素材に転写されます。
元々はシルクのスクリーンが使われていましたが、現在ではナイロンやポリエステルなども使用されています。シルクスクリーンの歴史は、中国の宋代(960-1279)に遡ります。当時、シルクを使用してデザインを布や紙に転写する技術が発展しました。この技術は、紀元前から中国で用いられていたステンシル技術が前身となっています。
その後、日本や他のアジア諸国、さらにはヨーロッパやアメリカにもシルクスクリーンが広まりました。1907年には、イギリスのサミュエル・サイモンが初めてシルクスクリーンの特許を取得。こうした技術革新や国際的な普及もあり、現代では、アートから商業印刷など多くの分野で利用されています。
シルクスクリーンの魅力は、繊細なデザインの再現性と、インクの厚みを活かした鮮やかな発色にあります。シルクスクリーンを使えば、繊細な線描から大胆なカラーブロックまで、さまざまな表現が可能です。
シルクスクリーンの特徴
シルクスクリーンには多くの特徴があります。以下からは、代表的な特徴やメリットについて見ていきましょう。
多様な素材への印刷
シルクスクリーンは、紙や布だけでなく、プラスチック、金属、木材など、ほとんどの素材に印刷可能です。たとえばTシャツやバッグ、看板、家庭用品など、幅広い製品に応用できます。
耐久性に優れ、長期間デザインを保つことができ、手触りや見た目に独特の風合いをもたらします。
鮮やかな色彩
シルクスクリーンは厚みのあるインクを使用するため、発色が鮮やかで美しい仕上がりになります。
特に重ね刷りでは、多彩な色合いやグラデーションも表現可能。水性インクや油性インクなど選択肢もあるため、用途に応じて最適なインクを選ぶことができます。
特にポップアートのような強烈な色彩表現を行いたい場合にはこの色彩表現が役立ちます。
大量生産が可能
シルクスクリーンは一度製版を作れば同じデザインを何度も印刷できるため、大量生産に適しています。このためTシャツ、ポスター、ステッカーなど広く利用されています。
製版づくりが一度だけでよく、印刷コストも低め。つまりコストパフォーマンスに優れ、企業ロゴやブランドメッセージを大量に印刷するといったマーケ・広告分野での利用も見られます。
また複数の色を重ねることで、カラフルで魅力的なデザインも可能です。
シルクスクリーンの制作プロセス
シルクスクリーンの制作は、以下3つの段階から成ります。
- 版下の作成
- ポジ(フィルム)の作成
- 製版
それぞれ詳しく見ていきましょう。
版下
版下とは、最初に作成するデザインの詳細について描いた原稿のことです。手描きで描かれることもあれば、デジタルツールを使用して作成されることもあります。
版下の作成では、デザインの各要素がクリアで精細に描かれていることが重要です。この下準備により製版の際に正確なデザインがスクリーン素材に転写され、インクが適切に通るようになります。デジタルツールで描く場合、高解像度でのデザイン作成がおすすめ。高解像度での制作により、細部まで精密に再現された版下が作成できます。
手描きの場合も、細かな部分まで丁寧に描き込むことで、品質の高い版下を作成できます。
また、版下の作成においては、色分解も重要です。色分解とは、デザインを異なる色ごとに分ける作業のこと。多色刷りの場合、各色ごとに版下を作成する必要があるのです。この分割作業で、重ね刷りによる鮮やかな色彩を実現することができます。
ポジ(フィルム)
版下ができたら、版下をもとにポジ(フィルム)を作成します。
ポジとは、デザインを透明なフィルムに転写したもの。次の工程である製版で使用します。ポジの品質が高いほど、製版の精度も高くなり、最終的な印刷結果が良くなります。ポジの作成では、デザインがフィルムに正確に転写されていることが重要です。ポジが不完全な出来であった場合、製版時にデザインが正確に再現されない可能性があります。
ポジの精度を高めるために、近年ではデジタル印刷技術が利用されることが多くなっています。
製版
製版は、スクリーンにデザインを転写して、インクを通すための印刷用の版を作成する工程です。スクリーンの一部にデザインを転写し、インクが通る部分と通らない部分を作り出します。
製版には、以下の3つの方法があります。
カッティング法
カッティング法は、デザインをスクリーンに転写するために、特殊な紙やフィルムをデザインに沿って切り抜き、スクリーンに貼り付ける方法です。一般的には以下の手順で行います。
- 版下の用意:デザインを描いた下絵(版下)を用意
- 切り抜き:ニス原紙やラッカーフィルムなどのシートを下絵に重ね、デザインに沿って手作業で切り抜く
- スクリーンへの貼り付け:切り抜いたシートを枠に張ったスクリーンに貼り付ける。アイロンを当て、熱で貼り付る。この時、インクが通る部分(シートでカットされていない部分)と通らない部分(シートでカットされた部分)が分かれる。インクが通らない部分がシートで塞がれ、通る部分が開いた状態になる
- 印刷:スクリーンを印刷対象の素材にセットし、インクを乗せてスキージで押し出し、素材に転写
カッティング法は、スクリーン自体に耐久性を持たせられ、長期間使用できるため、商業印刷などで広く利用されています。
手作業で行うため、細部まで丁寧に仕上げることができ、一色刷りやシンプルなロゴの印刷に適しています。手作業ならではの微調整も可能で、細かなデザイン変更にも対応できます。
ブロック法
ブロック法は、スクリーンの特定の部分を防水材で塞ぎ(ブロックアウト)、インクが通る部分と通らない部分を作り出す方法です。以下の手順で行います。
- 下絵の作成:デザインの下絵を作成し、各色ごとに分けた版を用意
- 防水材の塗布:下絵に合わせてスクリーンに防水材を塗布し、インクが通らない部分を塞ぐ
- スクリーンの準備:防水材が乾燥したら、スクリーンを印刷対象の素材(紙、布、プラスチックなど)にセット
- 多色刷りの準備:各色ごとに異なるスクリーンを使用し、順番にインクを通す。色の重なりや透明度をコントロールする。たとえば、3色のデザインを印刷するには、3枚のスクリーンが必要
- 印刷:スクリーンを使い、スキージーでインクを押し出し、デザインを素材に転写
ブロック法は、職人の高度な技術が必要です。インクの厚さや乾燥時間を調整することで、色の鮮やかさや透明度を変更可能。
スクリーンと防水材がしっかりと固定されているため、耐久性に優れています。商業印刷やアート作品で広く活用されています。
感光法
感光法は、感光材を使ってデザインをスクリーンに転写する方法。精度が高く、複雑なデザインにも対応可能です。
一般的には、以下の手順で行います。
- 下絵の作成:デザインを描いた下絵(版下)を用意し、各色ごとに別々の版下を作成
- 透明フィルムへの描画:下絵の上に透明フィルム(ポジ)を重ね、遮光性のインクでデザインを描画
- 感光材の塗布:スクリーンに感光材を均一に塗布。薄暗い環境で行う
- 露光:感光材を塗布したスクリーンにフィルムを重ね、光を当てて露光。光が当たった部分の感光材が硬化し、当たらなかった部分は硬化しない
- 水洗い現像:露光後、スクリーンを高圧水で洗い流し、感光材が除去された部分に孔を開ける
- 印刷:完成したスクリーンを印刷対象の素材にセットし、スキージーでインクを押し出し、デザインを素材に転写
感光法は、短時間で製版を行うことができるため、大量生産にも適しています。露光時間が短すぎるとデザインが不鮮明になり、長すぎるとデザインが飛び散ってしまう可能性があるため、露光時間と感光材の選定が重要です。
シルクスクリーン作品の代表的なアーティスト
ここからは、シルクスクリーン技法を用いた作品で有名なアーティストについて紹介します。
アンディ・ウォーホル
アンディ・ウォーホルの代表作「キャンベルスープ缶」や「マリリン・モンロー」は、シルクスクリーン技法を駆使して制作されました。ウォーホルの作品は、大量生産の象徴として、ポップアートのアイコンとなっています。
ウォーホルは、彼自身のスタジオ「ファクトリー」でシルクスクリーン技法を駆使し、大量生産の概念をアートに取り入れ、商業的な成功を収めました。ウォーホルの作品は、その鮮やかな色彩と反復的なデザインが特徴です。作品からは、消費社会やメディア文化に対する鋭い批評が読み取れ、シルクスクリーン技法はその表現に欠かせない要素となっています。
ウォーホルは、商業デザインの技法をアートに取り入れたことで、アートと広告の境界を曖昧にし、独自の位置を確立しました。彼の作品は、現代アートの一つの象徴として、今なお多くの人々に影響を与え続けています。
ロイ・リキテンスタイン
ロイ・リキテンスタインの作品は、大衆漫画にインスパイアされており、ドットパターン(ベンデイドット)や鮮やかな三原色を多用していることが特徴。ポップアートの中でも特に視覚的にインパクトがあり、シルクスクリーン技法が使われた現代アートとして象徴的です。
リキテンスタインは、シルクスクリーンの技法を使って、マンガのコマや広告のビジュアルを再現し、それをアートとして昇華させました。
彼の作品は、日常的な漫画のイメージを芸術作品として再解釈し、視覚的な表現方法に新たな意味を与えました。つまり、一般的な大衆文化の要素が高尚な美術として認識されるようになり、ポップアートの重要性を深めたのです。
リキテンスタインの代表作には『Whaam!』『Drowning Girl』『Oh, Jeff…I Love You, Too…But…』などがあり、特に広告業界やコミック業界に大きな影響を与えました。
草間彌生
草間彌生は、日本を代表する現代アーティストであり、シルクスクリーンを使用した作品でも広く知られています。
彼女の作品は、鮮やかな色彩と大胆なパターンが特徴です。草間の代表作には『かぼちゃ』シリーズや『インフィニティ・ネット』シリーズがあり、シルクスクリーン技法を用いることで、その視覚的なインパクトをさらに高めています。
草間の作品は、独特なドットパターンと鮮やかな色彩で世界的に高く評価されています。シルクスクリーン技法を用いることで、こうした特徴を強調し、視覚効果を最大限に発揮しているのです。
草間の作品は、心理的な深層や個人的な体験を反映しており、シルクスクリーンを通じてその複雑な内面世界を視覚化しています。草間は国内外で多くの芸術賞を受賞しており、現代アートにおける重要な存在として認識されているのです。
村上隆
村上隆は、現代日本を代表するアーティストで、シルクスクリーン技法を駆使した作品を数多く制作しています。彼の作品は、ポップカルチャーと伝統的な日本美術を融合させた独特のスタイルが特徴です。代表作の一つに『727』がありますが、この作品はシルクスクリーンを用いて精密なデザインと鮮やかな色彩を実現しています。
村上の作品は、その鮮やかな色彩と細部まで精密なデザインが特徴で、シルクスクリーン技法を用いることでその特徴を最大限に活かしています。彼の作品は現代アートの新しい方向性を示しており、国際的にも高く評価されています。村上の作品は、キャラクターやポップカルチャーの要素を取り入れたユニークさで知られ、アートと商業の境界を越えた新しい表現の形を示しています。
村上は、その功績により多くの国内外の賞を受賞しています。たとえば、国内では2016年に第66回芸術選奨文部科学大臣賞、2008年にはGQ Men of the Year 2008を受賞。海外では、2008年にTimeのThe Most Influential People In The World 100に選ばれ、2006年にニューヨークのAICAによるベスト展覧会賞を獲得しています。
まとめ
シルクスクリーンは、多様な素材に印刷できること、鮮やかな色彩、大量生産が可能な点が特徴です。制作プロセスは、版下の作成、ポジ(フィルム)の作成、製版の3つの段階からなり、感光法などの製法があります。代表的なアーティストは、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、草間彌生、村上隆など。シルクスクリーンを駆使した作品は、芸術と商業の両面で高く評価されています。
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