近年、コラージュを趣味とする人が増えました。「コラージュ」という呼称を聞いたことがある人は多いかもしれませんが、アートの動向であることはあまり知られていません。コラージュは、現代絵画の技法のひとつ。特にダダイズムやシュルレアリスムで使われたテクニックで、現在は広告などでもよく見かけます。
コラージュはどんな経緯で生まれ、どんな画家たちが作品を製作したのでしょうか。
定義や有名作品も含めて、コラージュについて解説します。
コラージュとは?
コラージュという言葉は名前ぐらいしか知らない、という方も多いと思います。
定義や貼り絵との違いも含めて、コラージュについて説明します。
コラージュの定義
コラージュはフランス語の「collage」に由来します。意味は「貼ること」「接着」。
その名前の通り、コラージュとは画面に印刷物や写真などさまざまなものを貼り付けて作品を構成していく技法を指します。写真の上に絵を描くこともあれば、印刷物などの切り抜きを貼り合わせたり、言葉を書き込むケースもあります。
コラージュは、20世紀の技術手法として最大の発明のひとつといわれています。コラージュからは「デコラージュdécollage(はがす)」「デクーパージュdécoupage(切りとる)」「デシラージュdéchirage(引き裂く)」といったさまざまな技法が生まれました。
コラージュの起源
コラージュが生まれたのは、1912年のことでした。キュビズムの創始者ピカソやブラックが、新聞紙や壁紙、切手やマッチ箱などを画面に貼り付けたのが起源とされています。当時は「パピエ・コレ(papier collé)」、つまり「糊付けされた紙」と呼ばれていました。
1912年以前にも、トロンプ・ルイユの技法を使って署名をラベルのように描くという例はいくつかありましたが、本物の紙を貼りつけるという方法は20世紀に生まれたものです。
キュビズムの中ではコラージュは二次元の絵画にとどまっていましたが、1920年代以降、イタリア未来派やダダイズム、シュルレアリスムの流れの中で、徐々に三次元的な作品も作られるようになります。
代表的な作家としてはジョルジュ・ブラック、マン・レイ、クルト・シュヴィッタースなどが有名。
20世紀美術が生み出した重要な技法といわれるコラージュは、現在にいたるまでアートやデザインの分野で活用されています。
コラージュと貼り絵の違い
コラージュは「貼り絵」と訳されることがありますが、厳密には違いがあります。
キュビズムの画家たちがはじめた「パピエ・コレ(糊付けされた紙)」は、名前の通り紙を貼りつけた二次元的な作品でした。いわゆる貼り絵と呼べるレベルのものです。
一方コラージュは、針金などの素材を使った三次元的な作品も含みます。第二次世界大戦後に起こった美術運動「アッサンブラージュ」に通じる立体感が、コラージュには内包されているのです。
コラージュの特徴
コラージュを知るには、特徴を把握するとより理解しやすくなります。
コラージュの特徴について、詳しく解説します。
異素材の組み合わせ
コラージュは貼り絵と違い、さまざまな素材を組み合わせてつくるのが特徴のひとつ。
新聞や写真などの紙だけではなく、布、針金などの固体素材など、絵画制作に関係のない日常品を用いた作品がたくさんあります。
とくにメディアの媒体を用いる手法が多用されることが多いコラージュ。風刺的なメッセージを伝えたり、幻想的なイメージを与えたり、あるいはユーモラスな作品となるなど、さまざまな効果をもたらしています。
接着による制作
コラージュは語源にある通り「貼り付けること」、つまり接着による制作から完成します。
第二次世界大戦後に興ったアッサンブラージュは、異素材の組み合わせという点はコラージュと同じです。しかしアッサンブラージュには「寄せ集めて集積させたもの」という概念があります。
接着を主要な手法とすることこそが、コラージュのコンセプトを支える重要な要素となっています。
即興性
コラージュの醍醐味は即興性と自由。感覚や本能のままに、即興的な概念をさまざまな素材で表現していくのが特徴です。「今」を切り取るというコラージュの即興性は、1960年代に興った「ハプニング」に通じるものがあります。
コラージュのこの即興性は、絵画作品だけではなく、映像や音楽にも投影されました。
有名なコラージュ作家
コラージュ作品を残した有名な作家には、20世紀を代表するアーティストがずらり。
その魅力を解説します。
パブロ・ピカソ
キュビズムの創始者のピカソ。ピカソとコラージュは関連がなさそうなイメージがありますが、実はピカソが1912年に製作した作品がコラージュの祖といわれています。
その作品《籐椅子のある静物》には、籐の網目がプリントされたクロスが直接貼り付けられています。籐椅子以外の静物にはコラージュは施されておらず、写実性を重視したというより物語性や幻想を感じさせる作品といえるでしょう。
作品にインパクトを与えている「JOU」の文字には諸説あり、「新聞」を意味する「JOURNAL」、「遊ぶ」を意味する「JOUER」の略といわれています。
ジョルジュ・ブラック
ピカソと並ぶキュビズムの体現者といわれるブラック。ブラックもまたピカソと同じ時期に、コラージュの原点となる作品を残しました。
1913年頃に描いた《グラスとボトル》をはじめ、木目模様や新聞の断片を貼りつけた作品がよく知られています。理知的なブラックは紙や模様を論理的に導入していて、総合的キュビズムと呼ばれる大胆な作風を確立しました。
ブラックはまたマッチ箱やパンフレットなどを用いて、さまざまなコラージュ作品を残しています。
マン・レイ
画家で映像作家でもあるマン・レイ。彼は前衛写真の先駆者としても有名です。
ダダイズムとシュルレアリスムにおいて活躍したマン・レイは、仕立て屋の父の影響で幼少期からマネキンや針、布などに興味を持っていたと伝えられています。彼のコラージュの手法も、この幼児期の記憶がベースになっているという説があります。
布を使った《Tapestry》や代表作《アングルのバイオリン》、メトロノームと女性の目の写真を組み合わせた《Indestructible Object》など、絵画や映像においてコラージュ的な作品をたくさん残しています。
クルト・シュヴィッタース
ドイツのハノーヴァーでダダ運動を展開したシュヴィッタース。同じくドイツ出身のジャン・アルプと交流し、紙や廃品を貼り付けた「メルツ」を生涯にわたって製作しました。「メルツ」は「コメルツKOMMERZ(商業)」からとった命名で、同名の雑誌を創刊したことでも知られています。
詩や音楽、グラフィックデザインも駆使したシュヴィッタースの作品は、どこか叙情性とモダンを感じるのが特徴。絵画にとどまらず、詩や舞台にもコラージュ手法を用いた創作活動を行いました。コラージュの集大成として「メルツバウ」という自宅も設計しています。
代表作には《Composizione astratta》《メルツ絵画25 A―星の絵》などがあります。
ハンナ・ヘッヒ
ドイツのゴータに生まれたハンナ・ヘッヒは、1916年頃からベルリンのダダ運動に参加。ジャン・アルプやシュヴィッタースとともに、オランダのデ・ステイルのグループと運動を盛り上げました。
ヘッヒの特徴は、コラージュやフォトモンタージュを用いて社会問題を表現したところにあります。洗練された技法を用いた風刺的作品で人気があります。
代表作は《ダ・ダンディ》《わたしの家訓》など。
ジョセフ・コーネル
ニューヨーク出身のジョセフ・コーネルは造形作家。独学で美術を学び、マックス・エルンストの影響を受けてコラージュ作品を制作しはじめます。とくに1930年代、60年代に制作された作品が残っています。
アメリカではじめてのシュルレアリスムの展覧会を開催したコーネルは、幻想的でノスタルジックな作風で人気を博しました。のちにオブジェを使ったアッサンブラージュやコラージュ的な映画も作成し評価されています。
代表作は《無題》《箱》など。
ロメア・ビアデン
アメリカのノースカロライナ出身のビアデンは、ニューヨークのハーレムの文化に影響を受けた画家です。「ハーレム・ルネサンス」の風潮の中で活躍したビアデン。彼はニューヨーク大学やアート・スチューデンツ・リーグで学び、雑誌の切り抜きや色紙をコラージュした町の風景をたくさん描きました。
ハーレムの活気やエネルギー、多様な人間像を生き生きと描かれているのがビアデンの魅力。ビアデンはまた、アフリカ系アメリカ人アーティストとして最初に評価された現代芸術家のひとりです。
代表作には《街並み》《Out Chorus》などがあります。
まとめ:20世紀美術の最大の発明のひとつ、コラージュ!
筆で描くだけではなく、紙の断片や布などの固体を貼り付けて作品を完成させるコラージュ。この手法は、20世紀のアートにおいて最大の発明のひとつとされています。
ピカソやブラックから始まったコラージュは、シュルレアリスムやダダなどに影響を与え、映像や音楽にも波及しました。現在も広告やデザインで、幅広く活用されています。日常的なアイテムを使ったコラージュの魅力は、親しみやすいアートである点です。さまざまなイメージのコラージュ作品からお気に入りを見つけたら、ぜひ身近に置いて楽しみたいものです。
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