こんにちは、アートリエ編集部です。
神出鬼没のストリートアーティストとして、世界中で名を馳せるバンクシー。
彼(バンクシーは性別も、個人か集団かであるのも2024年時点では不明なので、暫定的に当記事では「彼」と表記します)の作品は単なる「絵」や「グラフィティ」ではなく、社会や政治に対する強いメッセージを込めた、時に挑発的なものです。
彼の正体は謎に包まれているものの、作品を通じて彼が発信するメッセージは明確です。
本記事では、バンクシーの代表作を年代別に紹介し、その背景に込められた意味や歴史的な影響について解説します。
初期の作品(2000年代)
バンクシーが初めて注目を集めたのは、2000年代の初期です。
この時期、彼はイギリスを中心に活動し、主にステンシル(型抜き)技法を駆使した作品を制作しました。
彼の作品は、政治的なメッセージや社会的な風刺を鮮やかに表現し、ロンドンやブリストルなどの都市に描かれたグラフィティ(スプレー缶などを使って街の壁や建物に絵や文字を描くこと)は、瞬く間に話題となりました。
この時期は、彼のアーティストとしての表現技法が確立された時期でもあり、彼の名が一躍有名なったのです。
以下からは、バンクシーの初期における代表的な作品を見ていきましょう。
愛は空中に
「愛は空中に(Love Is In The Air)」は、バンクシーの代表的な作品の一つであり、彼の活動家としての姿勢や平和へのメッセージを象徴しています。
この作品は2003年にパレスチナの分離壁に描かれ、その後もさまざまな場所や形で再現され、広く認知されることとなりました。
バンクシーが世界的なアーティストとしての地位を確立する上で、この作品が果たした役割は大きいといえるでしょう。
作品概要
- 原題:Love is in the Air
- 制作年:2003年
- 画材:スプレーペイント、ステンシル技法
作品解説
「愛は空中に」は、顔をバンダナで隠した青年が、武器ではなく花束を投げようとしている姿を描いています。
青年は攻撃的な体勢を取っていますが、その手に握られているのは火炎瓶のような武器ではなく、カラフルな花束です。
この対比的な表現は、60年代のベトナム戦争や暴力に対して非暴力の抵抗を表す「フラワー・パワー」に由来しており、平和的な解決策を提案しているのです。
花束は鮮やかな色彩で描かれ、全体の白黒のステンシルに比較すると強調されたコントラストを形成しています。この技法は、バンクシーの作品においてよく見られる特徴です。
バンクシーはこの作品を通じて、暴力ではなく愛や平和の力が真の解決策であることを伝えていると捉えられます。
この作品が初めて描かれた場所は、戦禍と隣り合わせであるパレスチナの分離壁でした。
パレスチナの人々が直面している厳しい現実と、彼らが望む平和への願いを表現しているとも解釈できます。
原題「Love Is In the Air」は、「愛の予感」や「平和の訪れ」といった意味を持ち、暴力に支配された環境下でも希望や変化の可能性が存在することを示唆しています。
このようにバンクシーは、グラフィティとして表現されたこの作品を通じて、紛争や対立が続く世界において、非暴力的な方法での解決を訴えていると考えられます。
所蔵先
「愛は空中に」は最初にパレスチナの分離壁に描かれましたが、その後、ロンドンやニューヨークなど、さまざまな都市にも出現しています。
さらに、この作品はバンクシーの公式作品集「Wall and Piece」の表紙にも使われており、彼のキャリアを象徴する一作として認知されています。
オリジナルの壁画は現在も残っており、複製やプリント版がオークションで高額で取引されることも。
鼠をモチーフにした作品群
バンクシーの初期作品の中で特に有名なものに、鼠(ねずみ)をモチーフにした作品群があります。
この鼠たちは、彼自身のキャリアや表現方法を象徴する存在として描かれています。
作品概要
原題:作品ごとに異なる
制作年:1990年代末から2000年代初頭
画材:スプレーペイント、ステンシル技法
作品解説
バンクシーの鼠は、街の暗がりに潜む生物として描かれ、権力や社会体制からは排除される存在ですが、どんな環境にも適応する逞しさを持っています。
バンクシーは鼠を通じて、力のない市民や体制に反発するアーティスト、まさに自分自身の姿を描き出しているのです。
特に有名な「Love Rat」では、鼠が大きな絵筆を持ち、赤いハートを描いています。
一見、愛を表現しているように見えますが、赤い絵の具が血のように垂れており、愛が時に痛みや悲しみを伴うものであることを暗示しているかのよう。
この対比的な要素は、バンクシーの作品によく見られる特徴であり、深いメッセージ性が込められています。
また、「Gangsta Rat」は、ストリートカルチャーやアンダーグラウンドの象徴。都市の若者文化やニューヨークのアンダーグラウンドスタイルに触発された作品です。
この鼠が持つレトロなラジカセや派手なネックレスからは、当時のストリートカルチャーとバンクシーの生き様の交差が感じられます。
所蔵先
ロンドンやパリなど世界中の都市の壁に描かれ、現在では都市景観の一部として多くの人に親しまれています。
初期のストリートアートだけでなく、後にアート作品としても販売され、サイン入りや限定版が高額で取引されています。
2006~2010年代
2006年から2010年代にかけて、バンクシーは大規模なプロジェクトや展示を通じて、世界的なアーティストとしての地位を不動のものにしました。
この時期も引き続き、彼は挑発的な展示や社会問題へのメッセージ性を強調した作品を発表し、芸術の枠を超えた影響力を持つようになります。
特に、資本主義の矛盾や環境問題、戦争など、体制への批判をテーマにした作品は多くの人々の注目を集めました。
以下からは、こうした2006~2010年代におけるバンクシーの代表作を見ていきましょう。
Nola
「Nola」は、2008年にアメリカ・ルイジアナ州ニューオーリンズのマリニー地区に描かれたバンクシーの代表的なストリートアート作品です。
作品概要
- 原題:Nola (Umbrella Girl)
- 制作年:2008年
- 画材:ステンシル、スプレーペイント
作品解説
「Nola」は、傘を持つ少女が雨に打たれる姿を描いており、傘の内側から雨が降り注いでいるのが特徴。
この作品は、2005年に発生したハリケーン・カトリーナによる甚大な被害と、その後の復興の遅れに対する皮肉が込められています。
タイトルの「Nola」はニューオーリンズの愛称で、街全体を示しています。
災害から当事者を守るべきはずのもの(傘)が逆に被害を引き起こしているという逆説的なメッセージは、ハリケーン後の政府の無力な対応や、支援がかえって市民の負担となったことを暗示しています。
傘の外に手を伸ばすと雨は降っておらず、少女を守るべきはずの傘自体が問題の原因であると、少女はやがて理解するのです。
所蔵先
「Nola」はニューオーリンズにおけるバンクシーの作品14点のうち、現在もストリート上に残っている唯一の作品です。
破壊や盗難未遂に遭いながらも、2014年から透明のプレキシガラスで保護されています。
また、プリント版も製作され、灰色やネオンオレンジなど多彩なバージョンが限定で販売されています。
警官と風船
バンクシーの「警官と風船(Flying Copper)」は、2000年代後半の代表作で、警察権力に対する風刺を込めた作品です。
作品概要
- 原題:Flying Copper
- 制作年:2006年
- 画材:ステンシル、スプレーペイント
作品解説
警察の権威と無垢な風船を対比させ、力と無力さの間にある緊張関係を描いています。
警察という権威の象徴が、子どもの無邪気さを示す風船と一緒に描かれることで、権力の持つ二面性を浮き彫りにしている構図と捉えることが可能。
バンクシーはこの作品を通じて、権力の重さと、それが実際に持つ無力さを対比し、警察権力に対する風刺を視覚的に表現しました。
また、風船の軽やかさが、警官の持つ威圧感と対照的に描かれている点も注目すべき部分です。
所蔵先
ロンドンのノッティング・ヒル地区に描かれた作品が有名で、現在も壁に残っています。
また、この作品はギャラリーにも展示され、複製版がアート市場でも高額で取引されています。
近年の作品(2018年~)
2018年以降、バンクシーの作品はさらに注目を集めました。
特にサザビーズのオークションで「風船と少女」が落札直後にシュレッダーにかけられ、新たに「愛はごみ箱の中に」として誕生した出来事は衝撃的。
また、2019年には「Devolved Parliament」が約13億円で落札され、バンクシーの作品が持つ市場価値と影響力が一層高まりました。
さらに、2020年以降も彼はコロナ禍やウクライナ戦争を背景に新作を発表し続け、社会問題を反映したアート活動を展開。人々に対話と変化を促しているかのようです。
ここからは、このような近年、2018年以降の作品群について見ていきましょう。
愛はごみ箱の中に
「愛はごみ箱の中に」は、2018年のサザビーズ・オークションでバンクシーが仕掛けた前代未聞のパフォーマンスにより誕生した作品です。
この出来事は、バンクシーのアート界に向けた大胆な挑戦であり、アートの本質が「表現」であるという再確認と、市場に対する風刺が込められています。
作品概要
- 原題:Love is in the Bin
- 制作年:2018年(風船と少女のオリジナルは2006年)
- 画材:キャンバス、アクリル、エアロゾル・スプレー、シュレッダー装置
作品解説
「愛はごみ箱の中に」は、元々「風船と少女」としてオークションにかけられた作品が、落札直後に額縁内のシュレッダーで自動的に裁断されたことから新たに命名された作品です。
つまり、絵画というよりも絵画が破壊されたという事象全体がアートという扱いです。
バンクシーはこの仕掛けを事前に準備しており、オークション会場が混乱に陥る中、新しいアートが誕生しました。
作品が破壊されることで、市場におけるアートの商業主義や、それに対する批判的メッセージが強調され、むしろ作品の価値が上昇したとされます。
さらに、バンクシーはこのパフォーマンスを通じて、芸術家が自身の作品に完全な支配権を持てないという問題を視覚化し、所有者と作品の複雑な関係に新たな視点を投げかけました。
所蔵先
この作品は2019年、ドイツのフリーダー・ブルダ美術館で展示され、部分的に裁断された状態で公開されました。
ゲームチェンジャー
「ゲームチェンジャー」は、2020年のパンデミック中に発表された作品で、バンクシーが医療従事者に対する感謝と敬意を表現した作品です。
作品概要
- 原題:Game Changer
- 制作年:2020年
- 画材:塗料不明、キャンバス地への手描きを含む
作品解説
バンクシーが2020年5月にイギリス・サウサンプトン総合病院に寄贈した作品で、少年が従来のスーパーヒーローではなく、赤十字のマークが入ったマスクとエプロンを身に着けた看護師のフィギュアで遊ぶ姿が描かれています。
コロナ禍で奮闘する医療従事者を新しい時代のヒーロー(=ゲームチェンジャー)として描きました。
少年のそばではバットマンやスパイダーマンの人形がゴミ箱に捨てられ、これまでのヒーロー像が時代遅れとなったことを象徴しています。
バンクシーは、この作品を通じて、コロナ禍において医療従事者がいかに重要な存在であるかを称賛し、彼女たちの献身が社会の「ゲームチェンジャー」であると強調しました。
所蔵先
「ゲームチェンジャー」はイギリス・サウサンプトン総合病院に寄贈され、その後2020年秋にオークションに出品され、収益はイギリス国立健康機関を支援するために寄付されました。
まとめ
本記事では、バンクシーの代表作とそのメッセージ性、社会的影響を見てきました。
彼の作品は、アートとは本来、高額でやり取りするものではなく、表現や社会への訴えかけの手段として存在すると示しています。
また、作品が街中に突如登場する表現手法は、アートが特権階級だけのものではなく、誰でも自由に目にできるものであると再認識させられるものでした。
アートの商業化を皮肉る一方で、バンクシーはアートが公共空間で共有されるべきだというメッセージを発信し続けているのです。
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