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2024.08.26

ピカソの青の時代とは?特徴や画風、代表作品について詳しく解説します!

ピカソの青の時代とは?特徴や画風、代表作品について詳しく解説します!

20世紀最大の絵画の巨匠といえば、ピカソの名前を思い浮かべる方も多いことでしょう。アートが好きな人にとっても難解な作品が多いピカソには、「青の時代」と呼ばれたキャリアの期間があります。ピカソが20代前半ごろのことです。

後年の作風とは異なるわかりやすさがある青の時代は、その名称の通り、青い色彩が特徴。メランコリーな雰囲気があります。

巨匠となる前のピカソが歩んだ青の時代には、どんな特徴があるのでしょうか。ピカソの青の時代について、特徴や代表的な作品も含めてアートリエ編集部が詳しく解説します。

ピカソの「青の時代」とは

パブロ・ピカソの青の時代は、1901年から1904年に及ぶ3年間とされています。ピカソの代名詞であったキュビズムの作品とは、趣を異にしています。

どんな背景から青の時代がうまれ、どんな特徴を持っていたのでしょうか。

わかりやすく解説します。

背景と作品に与えた影響

ピカソの青の時代の色彩は、どこか抒情的で陰鬱な印象があります。青の時代が生まれた背景には、親友の自殺という悲しい事件が存在していました。

スペインで生まれたパブロ・ピカソは、1900年に初めてパリに滞在します。19歳を迎える少し前という若さのピカソには、裕福な家の息子だったカルロス・カサジェマスという友人が同行していました。カサジェマスは絵を描いたり詩を創作する、ピカソのアート仲間です。

パリでボヘミアン的な生活を楽しんでいた2人ですが、カサジェマスは恋に悩んだ末に自殺。豊かな詩情の素養によってピカソに影響を与えていた親友カサジェマスの死が、青の時代が生まれる発端となりました。

カサジェマスの死後、ピカソは亡きカサジェマスが使っていたアトリエで、紺青色を使った作品を描くようになります。彼のデスマスクをイメージした数点を描いたほか、1901年には≪カサジェマスの埋葬≫を制作。白の布に包まれたカサジェマスを囲んで悲しむ人々が印象的です。

イヴ・クラインやマレーヴィチなどの後世の画家たちにも影響を与えたといわれている青の時代は、ピカソの悲しみから生まれたのです。

画風とテーマ

親友の死があったとはいえ、パリの明るい色彩に憧れていたはずのピカソが、なぜ青色で作品を描くようになったのでしょうか。これには諸説あります。

たとえば、20歳前後だったピカソの、青年期特有の感情の発露とする説があります。鋭敏な感性に恵まれていたピカソは、親友の死に伴う感情を、あの暗い青紺色に込めたのではというわけです。

さらには、パリとバルセロナを行き来していた時代の不安感のためとか、画家として軌道に乗りきらないフラストレーションだったなど、解釈はさまざまです。

幼少期から「まるでラファエロのようだ」と激賞されたピカソの表現力は、青の時代においてさらなる成熟を見せていることも注目に値します。

親友の死で沈んでいた青の時代のピカソは、親友とその恋人をテーマにした作品のほか、貧しい人々や老人など、社会のなかで弱い立場にある人を多く描いています。

ピカソによってさまざまな青で表現された人々は、尊厳をもって絵のなかで存在感を放っています。

同じキャンパスの再利用 

最近の研究では、青の時代にピカソがキャンバスの再利用を繰り返していたことが報告されています。

現在見ることができる作品の下に別の構図が残されていたり、別の作品のためのデッサンが描かれていたり、ピカソを研究するうえで重要な痕跡が残っています。

20代のピカソがどのように模索し作品を描いたのか、興味深い研究として注目されています。

青の時代の代表作品

若き日のピカソを知ることができる青の時代の作品たち。巨匠と呼ばれる前の青の時代に、ピカソはどんな作品を遺したのでしょうか。代表的な作品を紹介します。

自画像

自画像
出典:Picasso美術館

作品概要

●  原題 Autoportrait

●  制作年 1901年

●  画材 油彩

作品解説

1901年、2度目のパリ滞在記に描かれた≪自画像≫。親友カルロス・カサジェマスを失った喪失感の中にあり、さらに経済的にも困難の時期にあったといわれるピカソの自画像です。

作品の中のピカソは、寒さから身を守るために、コートを羽織り首のあたりまでボタンをきっちり留めています。視線はメランコリックで鬱々としていて、沈んだ青の色の表現から顔も青ざめて見えます。

ピカソが画家であることを示す筆やパレットもなく、ただひたすら悲しみに耐えているような表情が印象的な作品。寡黙ささえも感じられる自画像からは、後年の華やかな活躍とは一線を画す空気が漂っています。

所蔵先:ピカソ美術館(Musée Picasso, Paris, France)

青い部屋

青い部屋
出典:フィリップスコレクション

作品概要

●  原題  La chambre bleue

●  制作年 1901年

●  画材 油彩

作品解説

青の時代において初期の代表作とされている≪青い部屋≫。1901年、ピカソがパリのヴォワール・ギャラリーで最初の個展を開催した後に描かれたといわれています。

青い部屋の中心には浅い浴槽が置かれ、太もものあたりを洗う裸婦が1人。髪をまとめた女性のポーズは、ドガやロートレックの影響を受けているという説があります。実際、部屋の壁にはロートレック作≪メイ・ミルトン≫が飾られています。≪青い部屋≫描かれる少し前に亡くなった、ロートレックへのオマージュかもしれません。

近年の赤外線による分析で、≪青の部屋≫の下には男性の肖像が描かれていることが判明しました。専門家たちは、ピカソのパトロンであったアンブロワーズ・ヴォワールである可能性を指摘。今後の研究が注目されます。

≪青の部屋≫を所蔵しているフィリップス・コレクションの創設者ダンカン・フィリップス氏は、「ピカソがこの作風を3年で終了してしまったことは残念だ」と述懐するほど、この作品を愛しました。

所蔵先 フィリップス・コレクション(The Phillips Collection, Washington, D.C.)

 

人生

La vie
出典:クリーブランド美術館

作品概要

●  原題 La vie

●  制作年 1903年

●  画材 油彩

作品解説

青の時代における代表作というだけではなく、ピカソの画家としてのキャリアにおいても重要な作品とされている≪人生≫。197×127.5 cmの大きさからも、ピカソの意気込みが伝わる大作です。

代表作である≪人生≫は謎が多く、さまざまな解釈が存在しています。画面でもっとも目につくアダムとイブのような2人の男女は、亡くなったカサジェマスと恋人であるとか、ピカソ自身であるという説もあります。

向かって右側には、男女とは対照的な母子像が描かれています。カサジェマスの恋人の未来像であるとか、生命のサイクルの象徴ともいわれますが、ピカソの真意は不明のままです。

2つの群像の間には、悲嘆に暮れたように抱き合うもう1組のカップル、そして打ちひしがれた女性が描かれていて、全体からは生の喜びよりも悲しみや絶望が濃厚に伝わってきます。

所蔵先 クリーブランド美術館(Cleveland Museum of Art, Ohio)

盲人の食事

盲人の食事
出典:メトロポリタン美術館

作品概要

●  原題 Le repas d’aveugle(La comida del ciego)

●  制作年 1903年

●  画材 油彩

作品解説

青の時代、貧しい人や身体障がい者の姿を数多く描いたピカソ。≪盲人の食事≫には、カトリック教会における聖餐を思わせる質朴さと敬虔さが感じられます。キリストの血を表すワイン、肉を象徴するパンに触れる盲人は、不幸を超越した尊厳を有しています。ピカソが尊敬していたベラスケスや、エル・グレコの影響を指摘する研究者もいます。

当時のピカソの手紙には「盲人の近くには彼を見つめる犬がいる」と書かれていて、科学的な分析では作品中の皿の下あたりにその姿が認められるそうです。

限られた色とシンプルな構図によって、力強さが伝わる絵画です。

所蔵先 メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art, New York)

年老いたギター弾き 

年老いたギター弾き
出典:Wikiart

作品概要

●  原題 Le vieux guitarriste aveugle

●  制作年 1903-1904年

●  画材 油彩

作品解説

青の時代の終わりごろに描かれた≪年老いたギター弾き≫。老いてやつれた男性は、路上で暮らすホームレスであったといわれています。社会から疎外された人と楽器という組み合わせは、ヨーロッパ絵画のテーマによく登場します。

青の時代の象徴である沈んだ青が支配する世界の中で、くっきりと浮かび上がるのはギター。冷たい青色と対照的な暖かみを帯びたギターは、男性にとって救いであり、人生の伴侶でもあります。

親友の死というトラウマの中で、芸術に救いを見出したピカソ自身の思いが伝わる作品です。

所蔵先 シカゴ美術館(The Art Institute of Chicago)

二姉妹

二姉妹
出典:Wikiart

作品概要

●  原題  L’entrevue (Les deux soeurs)

●  制作年 1902年

●  画材 油彩

作品解説

≪面会≫という別名もある≪二姉妹≫は、フランスとパリを行き来していた時代のピカソが、バルセロナで描いた作品。長い衣装をまとった2人の女性は姉妹とされていますが、聖書を知っている人ならば、聖母マリアのエリザベト訪問のシーンを思い出す構図です。

宗教的な奥深さを感じる作品ですが、2人は梅毒などの病気の女性を受け入れていた聖ラザロ病院の患者です。1人の女性の腕には小さな赤ん坊が抱かれており、もう1人は頼りきるように相手に身を預けています。不治の病に犯された女性たちと赤ん坊という対照的な存在が、青のトーンに支配された作品。ピカソが意識していた生と死を感じます。

所蔵先 エルミタージュ美術館(Hermitage Museum) 

海辺の母子像

パブロ・ピカソ《海辺の母子像》1902年 ポーラ美術館蔵
出典:ポーラ美術館

作品概要

●  原題 Mere et enfant sur le rivage

●  制作年 1902年

●  画材 油彩

作品解説

1902年にピカソが制作した≪海辺の母子像≫。スペイン出身のピカソは地中海に親しんでいたはずですが、海辺には明るさがありません。聖母子を思わせる親子が、所在なげに砂浜に立ち、赤い花を持って祈るようなポーズをとっています。中世から聖母マリアのマントは青色で描かれることが多く、青の時代の母子像も聖母子を意識した可能性があります。

ピカソは生涯を通して「母子」をテーマにした絵画を描いており、≪海辺の母子像≫はその原点ともいえる作品です。

砂浜には母子の影がなく、宗教画のような静謐さが漂う平面的な画面。青と茶によって埋められた画面から浮かび上がる赤い花は、親友への鎮魂を意味するという説もあります。

所蔵先 ポーラ美術館(神奈川県)

日本で青の時代の作品が見れる場所

 青の時代のピカソの作品には、のちに彼が生み出すキュビズムの絵画とは違う魅力があります。画家としてのキャリアが長かったピカソですが、青の時代はたったの3年。それでも青の時代の作品のいくつかは、日本の美術館でも鑑賞できます。

若きピカソの懊悩や親友への思いを感じるために、ぜひお出かけください。

ポーラ美術館 

ポーラ美術館
出典:ポーラ美術館

ピカソの作品を20点以上所蔵するポーラ美術館。青の時代の作品には≪海辺の母子像≫があります。青の時代の代表作である≪海辺の母子像≫は、キュビズム以前のピカソのデッサン力を堪能できる貴重な作品です。

ポーラ美術館は、母子をテーマにしたピカソ作品をいくつか所蔵しています。年代ごとに異なる作風を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 愛知県立美術館 

名古屋市の中心部にありアクセスがよいことで知られる愛知県立美術館。同館はピカソのエッチングを多数所蔵していますが、青の時代の作品≪青い肩かけの女≫を鑑賞できます。

1902年に制作された≪青い肩かけの女≫は、青の時代の他の作品同様、宗教的な荘厳さが漂う名作。モデルとなった女性の表情は喜怒哀楽のいずれにも属さず、個性も超越した神聖さがあります。

シンプルなラインと暗い青のニュアンスに、若きピカソの才能を実感できます。

ひろしま美術館

ひろしま美術館には、1902年に制作された≪酒場の二人の女≫があります。画面を大きく占める女性2人の背中からは哀感が漂い、青の時代ならではの憂愁が伝わってきます。

2022年、ひろしま美術館とフィリップス・コレクションの共同調査により、≪酒場の二人の女≫の下部に別の絵が描かれていたことが判明しました。うずくまるような母子像が見えたそうで、キャンバスの再利用を繰り返していたピカソの痕跡を感じることができます。

まとめ:青の時代の作品から鬼才ピカソの若き時代の苦悩を読み取る

キュビズムの創始者として有名なパブロ・ピカソには、青の時代と呼ばれる時期がありました。親友の死にショックを受けたピカソが、20代前半の3年間、青を基調に描いた作品を指します。

青年特有の憂愁を感じる青の時代の作品は、世間から疎外された人たちをモデルにしたものが多く、画家として不安定だった時代のピカソの心情が感じられるという特徴があります。

鬼才ピカソの繊細な青年期を、青の時代の作品からぜひ感じてみてください。

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