マーク・ロスコは、抽象表現主義の巨星の1人であり、その作品は美術史上における重要な位置を占めています。彼の作品の魅力は、その独自のスタイルと力強い表現力です。この記事では、ロスコの作品の特徴や代表作について詳しく解説していきます。
彼の代表作を通じて、抽象表現主義の魅力に迫り、作品がどのように芸術界に影響を与えたのか見ていきましょう。
マーク・ロスコとは?
マーク・ロスコ(本名:マルクス・ロトコヴィッチ)は、1903年にロシア・ユダヤ系の家庭で生まれ、1970年に亡くなったアメリカの画家です。
彼は一般的に抽象表現主義の代表的な作家の1人として知られていますが、彼自身は自らの作品をいかなる芸術運動にもカテゴライズしませんでした。
ロスコは、絵画を通じて抽象的な表現に没頭し、その作品は深い精神性と鮮やかな色彩で溢れています。独自のアートスタイルとダイナミックな筆致も魅力です。
マーク・ロスコの作品の特徴
マーク・ロスコの作品の特徴は、独自の抽象表現主義スタイルで、「カラーフィールド・ペインティング」と呼ばれるアートムーブメントの一翼を担いました。絵画に線や形、幾何学的な構成は使用されず、キャンバス全体を少ない色数の大きな色彩の面で埋め尽くすスタイルです。
ロスコの絵画は、油絵の具を水彩のように薄く溶き、何層も塗り重ねることによって生み出される深い透明感が特徴です。その特異な技法により、絵画の表面を凝視すると、最初に見えた色とは異なる色彩が浮かび上がってきます。
何がすごい?抽象表現に隠された緻密な計算
マーク・ロスコは、鑑賞者にどのように訴えかけ、どう理解されるかに徹底的にこだわっていました。表現する際に「7つの成分」という要素を大切にしていました。
- 死に対する明瞭な関心がなければならない。命には限りがあると身近に感じること。
- 官能性。世界と具体的に交わる基礎となるもの。存在するものに対して欲望をかきたてる関わり方。
- 緊張や葛藤、もしくは欲望の抑制。
- アイロニー。ひとが一時、何か別のものに至るのに必要な自己滅却と検証。
- 機知と遊び心。人間的要素として。
- はかなさと偶然性。人間的要素として。
- 希望。悲劇的な観念を耐えやすくするための10パーセント。
これら7つの成分が、彼の作品に織り交ぜられています。
マーク・ロスコの作風の変化
ここでは、マーク・ロスコの作風の変化についてご紹介します。ロスコはどのような変遷をたどり、独自の抽象芸術を手に入れたのでしょうか。ではその過程を一緒に見ていきましょう。
初期の作風
マーク・ロスコの芸術は、芸術的な都市ニューヨークで確立されました。街は常に近代美術家たちの展示会が開催され、新人アーティストたちにとって貴重な経験を提供する場所が豊富でした。
彼の初期の作品には、ドイツ表現主義からの影響がみられ、特にパウル・クレーとジョルジュ・ルオーの影響が顕著に現れています。
1928年にはオポチュニティギャラリーで若手アーティストたちとのグループ展に参加し、都市の風景を描いた表現主義風の作品が評判を呼びます。
ミルトン・エイブリーの影響
1930年代、画家ミルトン・エイブリーと出会います。エイブリーはロスコにプロの芸術家としてのアドバイスを与えた重要な人物です。
エイブリーの形態と色に関する知識を用いた自然画は、ロスコに大きな影響を与えました。
ロスコがエイブリーと出会った後、彼の作品にはエイブリーによく似た色彩や主題が現れ始めます。
たとえば、1933年から1934年に制作した「海水浴場もしくはビーチ」は、エイブリーの影響が色濃く出ています。
神話や無意識の世界の探求
この時期、ロスコはアメリカの現代美術が概念的な停滞に陥っていることに危機感を抱き、都市や自然の風景以外の主題を探し始めました。
ロスコは社会的影響を持つ芸術を志向し、神話や無意識の世界の探求を深めていきます。怪物や神話的な価値観を自身のアートに取り入れることで、現代の政治的象徴や価値観に打ち勝つことができると信じていました。
精神分析理論や神話学にも没頭し、普遍的な神話のシンボルを理解することで、彼の芸術的アプローチが変化し、魅力的な作品をさらに生み出すことになります。
ニーチェの影響
マーク・ロスコの芸術は新たなビジョンに向かい、近代人の精神の探求と神話の創造に焦点を当てました。この時期、彼に最も重要な影響を与えたのは、フリードリヒ・ニーチェの『悲劇の誕生』です。
ニーチェは人間が内なる不安や恐怖に支配され、非理性的で本能のままに生きる野蛮な存在であると考え、近代と原始の世界にはあまり変わりがないと主張しました。
この哲学的な背景からロスコの芸術は、近代人の精神的な虚無感を減らすことを目的とするものになっていきます。
シュルレアリスムから抽象芸術への移行
マーク・ロスコの芸術表現は、シュルレアリスム、キュビスム、抽象表現主義といったさまざまな要素を取り入れました。
1936年、ニューヨーク近代美術館で開催された『キュビスムと抽象芸術』展と『幻想芸術:ダダとシュルレアリスム』展に参加し、これらの展示はロスコに大きな影響を与えます。
ロスコは神話を触媒として活用し、シュルレアリスムと抽象芸術を巧みに融合させました。その結果、彼の作品は抽象化が進み、1942年メルシ百貨店の展示で作品が発表されます。
マルチフォーム絵画への移行
マルチフォームという言葉は批評家によって付けられたもので、ロスコ自身が考案したわけではありません。
特に1948年に制作された作品《No.18》や《無題》は、彼の芸術の移行期を象徴する代表作です。
これらの作品において、ロスコは有機的な形態を重ねて組み立て、人間の表現とは異なる自己完結した存在を示しました。
1949年にはマルチフォームの色面が整理され、大きな縦長のキャンバスに矩形の色面が縦に配置されるロスコの代表的なスタイルが確立します。
マーク・ロスコの代表作
ここでは、マーク・ロスコの代表作をいくつか紹介します。マーク・ロスコの魅力をぜひ楽しんでください。
ロスコルーム
元々はシーグラムビルの壁画の一部として制作された絵画です。ロスコは、自分の作品がほかの作品と隣接することを嫌い、独自の鑑賞環境を提供したいと考えました。
その結果、彼が生み出したのが「ロスコルーム」です。このコレクションは合計で30点あり、それぞれ異なる要素やテーマを探求しています。
これらの作品は現在、世界中の美術館で展示されており、日本の川村美術館やアメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリーなどでご覧いただけます。
ロスコチャペル
出典:The New York Times Magazine
ロスコチャペルはアメリカ・テキサス州のヒューストンにあり、マーク・ロスコの最後のアート作品です。あらゆる人種や宗教の方々に向けて作られ、彼の作品を鑑賞し、瞑想し、祈る場として提供されています。
ロスコ・チャペルは八角形で、ロスコの14枚の作品が配置されています。どの作品も黒にちかい紫や深みのある赤、緑のような色が用いられています。天井から入る光で作品の色彩が微妙に変化します。
約3年の歳月をかけて完成したこの作品は、ロスコの創造力と芸術的情熱の結晶といわれています。ロスコは完成披露を見ることなく、マンハッタンにある自宅アトリエにて自ら命を絶ちました。
マーク・ロスコの作品はどこで見られる?
以下は、マーク・ロスコの作品が見られる国内の美術館の一例です。
美術館名 | DIC川村記念美術館 | Artizon Museum |
住所 | 千葉県佐倉市坂戸631 | 東京都中央区京橋1-7-2 |
営業時間 | 9:30~17:00 | 10:00~17:30(金曜は19:30まで) |
休館日 | 月曜、年末年始、展示替え、メンテナンス期間 | 月曜 |
公式サイト | https://kawamura-museum.dic.co.jp/ | https://www.artizon.museum/ |
特徴 | ロスコの特別な部屋がある | 「無題」が見られる |
まとめ
マーク・ロスコは、抽象表現主義の代表的な作家の1人です。薄く溶いた油絵具を、何層も塗り重ねた透明感のある作品が魅力です。
マーク・ロスコは、鑑賞者に訴えかけるために、生や死など7つの要素を意識した作品を数多く生み出し、人々を魅了しました。
心に訴えかけてくるようなマーク・ロスコの作品は日本国内でも鑑賞可能です。マーク・ロスコの抽象世界を、ぜひ楽しみましょう。