アートリエ編集部が、印象派の風景画家アルフレッド・シスレーを詳しく解説します。
シスレーの作品に興味がある方のなかには、「どのような人物だったのか」「代表作は?」と気になる方もいるでしょう。
そこでこの記事では、シスレーの人物像や画家としての歩みを紹介し、代表作や日本で作品が見られる美術館まで幅広く解説します。この記事を読めば、シスレーの魅力と作品世界を深く知れるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
画家アルフレッド・シスレーとは

出典:Wikipedia
アルフレッド・シスレーは、フランスで生まれたイギリス人の画家です。印象派の中でも風景画に特化した存在として知られています。制作した約900点の油彩画のほとんどが、セーヌ川沿いやパリ郊外の自然風景を題材としている点が特徴です。
多くの印象派の画家が後年に作風を変えたのに対し、シスレーは生涯にわたって印象派独自の光と色彩の表現にこだわりました。シスレーの作品は、現在でも国内外の美術館で鑑賞できます。
アルフレッド・シスレーの生涯

出典:Wikipedia
ここでは、アルフレッド・シスレーの生涯を詳しくみていきましょう。
1839年に貿易商の息子として誕生
シスレーは1839年10月30日、フランスのパリにて、イギリス人実業家の家庭に生まれました。父・ウィリアムは織物を扱う貿易商として成功しており、裕福な環境のもと、兄姉に囲まれた末っ子として育ちました。
家族はロンドンにルーツを持ちながらも、フランスを拠点に生活し、生涯のほとんどをパリとその周辺地域で過ごしています。シスレーは商人の家庭で育った後、芸術への情熱にすべてを捧げる道を選びます。
商業よりも美術に興味を持つ
若いころは家業を継ぐことを期待されていたシスレーは、ロンドンで商業の勉強をしていました。しかし、次第に絵画の魅力に引き込まれます。芸術の世界で生きる決意を固めると、21歳で実業の道を離れ、パリに戻ってシャルル・グレールの画塾に入門します。
シスレーにとって画塾での経験は、画家としての基礎を築く重要な第一歩となりました。画塾で出会った仲間たちとの交流は、シスレーの芸術的感性を磨き、後の印象派運動へとつながります。
印象派のメンバーと出会う

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シスレーは、後に印象派の中心人物となるモネやルノワール、バジールと出会います。モネやルノワールとは年齢も近く、互いに刺激を受けながら画家としての感性を育みました。
ルノワールとは深い友情で結ばれ、生涯にわたって影響し合う関係だったようです。シスレーにとって印象派の基礎を築く重要な期間だったといえます。
クロード・モネを詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ併せてご覧ください。
戦争で破産する
普仏戦争が始まると、シスレーの生活は一変します。シスレーが暮らしていたブージヴァルは戦火の影響を受け、家や財産を失いました。翌年には、頼りにしていた父の事業も破綻し、経済的な後ろ盾を失います。
シスレーは、絵を描いて売ることで生活費を賄うしかありませんでした。しかし、当時は評価も低く、思うように作品が売れない厳しい状況が続きます。その後も作品を描き続けますが、経済的困窮から抜け出せませんでした。
イギリスで正式に婚姻届けを出す
27歳のシスレーは、花屋で働いていたウジェニー・レクーゼク(マリー・レクーゼク)と出会い、交際を始めます。翌年には息子が、2年後に娘が誕生しました。しかし、シスレーの父親は2人の結婚を認めず、経済的な援助を打ち切ります。
その後も正式に結婚しないまま過ごしましたが、1897年にイギリス・カーディフで婚姻届けを提出しました。シスレーは家族とウェールズの海辺で穏やかな時間を過ごし、その風景を描いた作品を数多く残しています。
1899年に死去
1899年1月29日、シスレーはフランスのモレ=シュル=ロワンで喉頭癌のためこの世を去りました。シスレーの死は、妻のマリーが病により亡くなってからわずか数か月後のことでした。
2人の遺体は、モレ=シュル=ロワンの墓地に埋葬されています。生前は注目される機会が少なかったシスレーですが、今では最後まで印象派の精神を貫いた画家として、高く評価されています。
アルフレッド・シスレーの人物像と名言

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シスレーの名言としてよく引用される「すべての絵は、芸術家が恋に落ちた場所を示している」という言葉には、彼の風景に対する深い愛情が込められています。これはシスレーの芸術観を象徴する表現として広く親しまれています。
また、長年連れ添った妻マリーとの、静かで穏やかな生活も重ねられているようです。
シスレーは、名声や流行には背を向け、風景の美しさをありのままに描くことに情熱を注いだといわれています。その人柄は、彼の作品にも色濃く表れていると言えるでしょう。
アルフレッド・シスレーの作品の特徴

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シスレーの作品の特徴は、風景画のみを描き続けた点と、印象派の作風を守った点です。それぞれ詳しく解説します。
風景画を中心に描き続けた画家
シスレーは、生涯を通じて風景画を描いたことで知られています。自然そのものを主役にし続けたシスレーの姿勢は、ある意味でストイックでした。
川辺の光や水面の揺らぎ、空の色の変化などありふれた風景が丁寧に描かれた作品には、自然の静けさと力強さが共存しています。派手ではありませんが、見るほどに奥深い世界が広がる点も特徴的です。
風景画を詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく紹介しているのでぜひ併せてご覧ください。
印象派の作風を守る
シスレーは、印象派に初期から関わった人物の1人です。同時代の画家が個性を追求して作風を変えていくなかで、印象派の作風を守り続けました。
淡くにじむ光の表現や筆触を残すタッチ、自然な色調の重なりなど、シスレーのどの作品からも印象派本来の魅力と精神が感じられます。シスレーは、今もなお印象派を愛する多くの人々に支持されています。
印象派は19世紀後半に誕生した芸術運動で、光と色彩の革新的な表現によって、美術の流れを一変させました。
印象派を詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく紹介しているのでぜひ併せてご覧ください。
アルフレッド・シスレーの代表作

出典:Wikipedia
ここでは、アルフレッド・シスレーの代表作を以下の内容で紹介します。
- ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋
- 洗濯場
- ハンプトン・コート宮殿近くのモーズリーのレガッタ
- ポール・マルリー(ポール・マリー)の洪水
- ルーヴシエンヌの雪
- モレのロワンの運河
- モレ・シュル・ロワンの教会ー雨の朝
それぞれの作品の特徴をみていきましょう。
ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋

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1872年に描かれた「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋」は、シスレーが印象派の様式を確立しつつあった時期の作品です。セーヌ川に架かる鉄橋とその周辺の街並みは、明るい色調と軽快な筆致で表現されており、夏の陽光と水辺のにぎわいを感じさせます。
建物の直線と水面の反射が巧みに対比されており、橋の構造美と自然の流れが調和した秀作です。現在は、ニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されています。
洗濯場

出典:Wikiart
「洗濯場」は1876年に描かれた作品で、日常の静かな一場面を題材に、穏やかな色彩と柔らかな筆使いで描かれています。川辺で洗濯をする人々の様子は、華やかさこそないものの、そこに暮らす人々の営みと自然との共存を感じさせます。
ハンプトン・コート宮殿近くのモーズリーのレガッタ

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1874年に描かれたこの作品は、イギリス・テムズ川流域の風景を題材とした1枚です。ボートレース「レガッタ」のにぎわいが印象的に描かれています。水面に映る光や、人々の動き、夏の空気感が巧みに表現されており、印象派らしい臨場感があふれています。
シスレーは、短期間のイギリス滞在中に数多くの風景を残しました。そのなかでも、この作品は都市と自然が調和した瞬間を捉えたものとして、評価されています。
ポール・マルリー(ポール・マリー)の洪水

出典:Wikiart
「ポール・マルリーの洪水」は、1872年と1876年の2つのシリーズで、増水したセーヌ川周辺の町が描かれています。シスレーは洪水の悲劇的な状況を、詩情豊かに、静けさをもって描きました。
水に浸かった街並みや家、空の広がりなどが全体に静謐な空気を与えており、自然の力と人間の営みの対比が際立ちます。
ルーヴシエンヌの雪

出典:Wikiart
「ルーヴシエンヌの雪」は、パリ郊外の冬の景色を描いた作品です。淡く反射する雪の光、わずかに差し込む陽の光と陰影の織りなす美しさが、見る者の心を穏やかに揺さぶります。
印象派にとって雪景色は珍しい題材ではありませんが、この作品はシスレー独自の詩情とリアリティが描かれている作品です。
モレのロワンの運河

出典:Wikipedia
晩年の作品である「モレのロワンの運河」は、シスレーが暮らしていたモレ=シュル=ロワン周辺の風景が描かれています。静かな水面と、そこに映る空と建物の色彩が美しく調和し、時間がゆっくりと流れているかのようです。
モネら友人たちによってリュクサンブール美術館に寄贈されたこの作品は、シスレーの画業の円熟を示す1枚として評価されています。
モレ・シュル・ロワンの教会ー雨の朝

出典:Wikiart
「モレ・シュル・ロワンの教会ー雨の朝」は、1893年に描かれた 晩年の代表作の1つです。シスレーが暮らしていたフランスの小さな町モレ=シュル=ロワンにあるノートルダム教会を題材に、雨上がりの静けさを繊細に表現しています。
この作品は全14点に及ぶ教会の連作の1つで、シスレーが町と風景に対して深い愛着を抱いていたことがわかる1枚です。
日本でアルフレッド・シスレーの作品がみられる美術館

出典:Wikipedia
日本でシスレーの作品がみられる美術館は、以下のとおりです。
- ポーラ美術館
- アーティゾン美術館
- 東京富士美術館
- ひろしま美術館
それぞれ詳しく解説します。
ポーラ美術館

出典:ポーラ美術館公式サイト
ポーラ美術館では、シスレーの「セーヴルの跨線橋」「ロワン河畔、朝」などを収蔵しています。
シスレーの作品の中でも、鉄橋や川辺の風景などを描いた風景画を中心に鑑賞できるのが特徴です。
開館時間 | 9:00〜17:00 |
観覧料 | 大人:2,200円 大学・高校生:1,700円 中学生以下:無料 障がい者手帳をお持ちのご本人および付添者(1名まで):1,100円 |
休館日 | 年中無休(展示替えのため臨時休館あり) |
アクセス | ・電車+無料送迎バスでお越しの方 「小田原駅」で箱根登山線に乗り換え「箱根湯本駅」下車(約15分)、「箱根湯本駅」で乗り換え箱根登山電車「強羅駅」下車(約40分)、「強羅駅」からポーラ美術館無料送迎バス(約8分) 他にも様々なアクセス方法がございます。詳しくは下記よりご確認ください。 https://www.polamuseum.or.jp/info/access/ 住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山 1285 |
HP | https://www.polamuseum.or.jp/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報は公式ウェブサイトにてご確認ください。
アーティゾン美術館

アーティゾン美術館では、「森へ行く女たち」「サン=マメス六月の朝」など、シスレーの代表的な油彩作品を収蔵しています。
風景の中に人の姿が溶け込むような構図が多く見られ、シスレーらしい穏やかな自然描写が楽しめます。
開館時間 | 10:00〜18:00 |
観覧料 | 一般:1,800円 学生:無料 ※展覧会のページにて要確認 |
休館日 | 月曜日・展示替え期間・年末年始 |
アクセス | JR東京駅(八重洲中央口)、東京メトロ銀座線・京橋駅(6番、7番出口)、東京メトロ・銀座線/東西線/都営浅草線・日本橋駅(B1出口)から徒歩5分 |
HP | https://www.artizon.museum/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報は公式ウェブサイトにてご確認ください。
東京富士美術館

出典:東京富士美術館
東京富士美術館では、「牧草地の牛、ルーヴシエンヌ」「レディース・コーヴ、ラングランド湾、ウェールズ」などが収蔵されています。
草原や海辺といった異なる風景を描いた作品が見られるため、シスレーの画風の幅広さを感じられる展示が特徴です。
開館時間 | 10:00〜17:00 |
観覧料 | 大人:1,500円 大学・高校生:900円 中学・小学生:500円 |
休館日 | 月曜日(祝日、振替休日の場合は開館。翌火曜日は振替休館)、年末・年始、展示替期間 |
アクセス | ・JR「八王子駅」からバスで「創価大正門東京富士美術館」下車 ・京王線「京王八王子駅」からバスで「創価大正門東京富士美術館」下車 |
HP | https://www.fujibi.or.jp/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報は公式ウェブサイトにてご確認ください。
ひろしま美術館

出典:ひろしま美術館
ひろしま美術館では、「サン=マメス」と題されたシスレーの作品が収蔵されています。
広島の中心地にありながら、静かに絵画と向き合える空間の中で、シスレーの魅力を堪能できるでしょう。
開館時間 | 9:00〜17:00 |
観覧料 | 一般:2,000円 高・大学生:1,000円 小・中学生:500円 |
休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌平日休、特別展会期中)、年末年始、展示替え期間、臨時休館日 |
アクセス | ・広島駅から市内路面電車で「紙屋町東」下車 徒歩5分 ・バス「広島バスセンター」下車 徒歩5分 |
HP | https://www.hiroshima-museum.jp/index.html |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報は公式ウェブサイトにてご確認ください。
まとめ

出典:Wikipedia
この記事では、アルフレッド・シスレーの生涯や代表的な作品を紹介しました。シスレーは印象派の中でも風景画にこだわり、自然と誠実に向き合い続けた画家です。
華やかな表現ではなく、静かな風景に宿る光や空気の変化を丹念に描いたその作風は、今も多くの人々に感動を与えています。この記事を参考にして、シスレーの風景画に触れて、魅力を体感してみてください。
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