アートリエ編集部がジェフ・クーンズのキャリアや代表的な作品について、詳しく解説します。
ジェフ・クーンズは、現代アートを代表する世界的に有名なアーティストです。なかには、「ジェフ・クーンズってどんな人?」「何がすごいの?」と思う方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、ジェフ・クーンズはどのような芸術家なのか詳しく紹介します。また、代表作や作品が見られる美術館も併せて紹介します。この記事を読めば、ジェフ・クーンズの人物像と作品を理解できるので、詳しく知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
ジェフ・クーンズとは

出典:Wikiart
ジェフ・クーンズは、ペンシルベニア州のヨーク生まれの現代美術家です。日用品やポップカルチャーを題材にし、鏡面仕上げの巨大な彫刻作品などの芸術作品で世界的に注目を集めています。
代表作には《バルーン・ドッグ》や《ラビット》などがあり、ポップで洗練されたビジュアルが魅力です。作品の背景や解釈においては、鑑賞者に委ねる姿勢を貫いています。
ジェフ・クーンズが築いたキャリア

ここからは、ジェフ・クーンズがどのようにしてキャリアを築いてきたのか、誕生から詳しく説明します。
ペンシルベニア州で誕生しサルバドール・ダリを敬愛した
クーンズは1955年、アメリカ・ペンシルベニア州ヨークに生まれました。幼少期から芸術に触れて育ち、父親の家具店ではクーンズが模写した絵画をショーウィンドウに飾るほどの腕前だったようです。
ティーンエイジャーのころにはシュルレアリスムの巨匠、サルバドール・ダリに強い憧れを抱いています。実際に、ニューヨークのホテルで本人に会いに行ったというエピソードは有名な話です。
サルバドール・ダリについて、もっと詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
大学で絵画を学んだ後は制作活動に励む
クーンズは、ボルチモアのメリーランド・インスティチュート・カレッジ・オブ・アートとシカゴ美術館附属学校で絵画を学び、1976年に美術学士号(BFA)を取得しました。学生時代にはアーティストのエド・パシュケに師事し、助手としても働いています。
美術教育と実務経験の双方から刺激を受けたこの時期は、クーンズの芸術スタイルの形成に大きな影響を与えました。卒業後は現代アートの中心地、ニューヨークを拠点にして活動を本格化させます。
スタジオを持ち美術家としての地位を確立

1970年代末、クーンズは、ニューヨーク近代美術館のメンバーシップデスクで働きながら創作活動を続けていました。アート市場に依存せず、金融業で制作資金を得るなど、自立したアーティストとしての姿勢を貫いていたのが特徴です。
やがて自分のスタジオを立ち上げ、量産性やプロデュース力を活かした作品づくりを進めます。このスタイルは、同じくニューヨークを拠点にしていたアンディ・ウォーホルのファクトリー的アプローチを思わせる側面があります。
アンディ・ウォーホルについて、もっと詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
自分を広告に使用
クーンズは自らの外見やキャラクターを広告的存在として活用することで話題を呼びました。サルバドール・ダリを彷彿とさせる赤い髪や細い口ひげ、ビジネスマン風の出で立ちは、アーティストとしてのブランド戦略そのものです。
1980年代にはアート作品の宣伝に自分の姿を大々的に登場させるなど、自己をパッケージ化するアプローチを実践しています。この手法は、作品における商業性・アイデンティティの重要な要素として注目されています。
シリーズを制作
クーンズは、一貫してシリーズ作品の形式で独自の世界観を展開してきました。世界観を感じられる作品として、《インフレータブル》《ザ・ニュー》《セレブレーション》《バナリティ(凡庸)》などが挙げられます。
ほとんどの作品が大量生産品や日常的なモチーフを用いながら、高度な工芸技術で再構築されているのが特徴です。特に、ステンレス製の鏡面彫刻による《バルーン・ドッグ》は、アートとキッチュの境界をあいまいにしながら世界的な評価を獲得しています。
これらの作品は、クーンズの代名詞ともいえる作品です。
ジェフ・クーンズはどのような人物?

ここからは、ジェフ・クーンズがどのような人物なのか、評判も含めて解説します。
評価は高いが批判も多い
クーンズは世界的に高い評価を受ける一方で、美術界で最も賛否が分かれるアーティストの1人です。美術評論家に大絶賛されながらも、雑誌関係者からは酷評されているコメントもみられます。
クーンズが制作したシリーズの1つ、《メイド・イン・ヘヴン》は、露骨な性描写を描いた作品として批判を集めました。ただし、クーンズの作品が高額取り引きをされている件や、2005年にアメリカ芸術科学アカデミーの会員に抜擢されるなど確かな実績があるのも事実です。
訴訟問題が多い人物
クーンズは1980年代以降、他の作品をもとに自分の作品を制作しているとされ、著作権侵害や盗作をめぐる複数の訴訟を受けています。なかでも有名なのが「String of Puppies」訴訟です。
クーンズの作品「String of Puppies」が、アート・ロジャースによる「Puppies」に類似しているとして、裁判に発展しました。クーンズはフェアユースを主張しましたが、裁判で認められず敗訴となっています。
このように、敗訴したケースも少なくありませんが、パロディだと認められて勝訴した案件もあります。
存命作家の中で最も高い価格で落札された
クーンズは、存命する芸術家のなかで、作品が最も高く落札されたアーティストとしても知られています。2019年には、代表作《ラビット》がオークションで約9100万ドル(日本円で約100億円)で落札されました。
この作品は、1986年に発表されたステンレス製の風船ウサギを模した彫刻で、クーンズのシグネチャー的存在でもあります。《ラビット》の落札により、デイヴィッド・ホックニーから最も高額な存命アーティストの座を奪い取った形となりました。
ジェフ・クーンズの妻

クーンズは、2度の結婚歴があります。1人目の妻はポルノ女優や国会議員などの経歴がある、チチョリーナことシュターッレル・イロナです。チチョリーナは、《メイド・イン・ヘヴン》のモデルでもあります。2人の間には息子が誕生しますが、1994年に離婚しました。
現在の妻はアーティストのジャスティン・ウィーラー・クーンズです。南アフリカ出身のジャスティンは、1995年にニューヨークでクーンズと出会い、スタジオで働いたのをきっかけに結婚しています。
ジャスティンはジュエリーブランドの共同創設者でもあり、近年はNYで初個展を開催するなど精力的に活動しています。
ジェフ・クーンズの作品の特徴

クーンズの作品は、奇抜なビジュアルだけでなく、現代アートの潮流や哲学とも深く結びついています。ここからは、クーンズの作品の特徴を紹介します。
ポップアートやシミュレーショニズム運動
クーンズの作品は、ポップアートの系譜にありながら、1980年代のシミュレーショニズム運動とも強く結びついています。この芸術運動は、既存のイメージや消費文化を意図的に引用・再構成し、「オリジナリティとは何か」を問い直すものでした。
クーンズは、広告やマスカルチャー、キッチュといった要素を積極的に取り入れ、アートと日常の境界線をあいまいにする手法を展開します。その結果、クーンズの作品は表層的や空虚と評されながらも、ポストモダンの象徴として高い評価を受けています。
現代アートにはさまざまな楽しみ方があり、作家ごとに表現が多様です。
以下の記事では、現代アートの主なジャンルや代表的なアーティストを詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
頭脳派彫刻作家
クーンズは、自ら手を動かす職人的アーティストではなく、企画とディレクションに特化した頭脳派です。クーンズは構想や素材選定、技術管理などを一貫して統括し、作品の制作は職人が在籍するスタジオに委託しています。
複雑な鏡面加工や巨大な金属彫刻は、緻密な計算と資本力がなければ実現できません。こうした手法は、芸術家の役割を職人からプロデューサーへと拡張した存在ともいえるでしょう。
ジェフ・クーンズの代表作

ここでは、ジェフ・クーンズのキャリアを象徴する代表的な以下の作品を紹介します。
- バスケットボール
- ラビット
- made in heaven(メイド・イン・ヘブン)
- バルーンドッグ
- パピー
- 掃除機
次項では、これらの作品の背景や特徴を個別に詳しく見ていきましょう。
バスケットボール

バスケットボール《Three Ball Total Equilibrium Tank》は、クーンズの初期代表作の1つです。バスケットボールを、水と塩化ナトリウムの溶液で満たしたガラス水槽に浮かべています。
完璧な静止状態を保つその姿は生と死の均衡を象徴しているとされ、1985年の展示以来、現代アート界に大きな衝撃を与えました。
ラビット

1986年に発表されたラビット《Rabbit》は、ステンレススチール製の鏡面彫刻で、風船のウサギをかたどったポップで可愛らしいフォルムが特徴です。
《Rabbit》の表面に映る鑑賞者の姿は、見る者の存在や社会性を問い直す作品としても機能します。2019年には現存作家の作品として、史上最高額で落札され、大きな話題を呼びました。
made in heaven(メイド・イン・ヘブン)

《Made in Heaven》は、最初の妻であるチチョリーナとの性的表現を含む写真・彫刻作品群です。
従来のタブーを芸術に取り込み、愛と欲望、公共と私的領域の境界を問いかけたこの作品は社会的に激しい賛否両論を巻き起こしました。その挑発性は今も語り継がれています。
バルーンドッグ

バルーンドッグ《Balloon Dog》は、子どもの誕生日会で見かける風船の犬を、光沢あるステンレスで高さ約3メートルに再構築したクーンズの代表作です。
色とりどりのバルーンドッグは、高級品として世界中の美術館やコレクターに所蔵され、クーンズの名を一般層にも広めました。
バルーンドッグ、ポップとラグジュアリーの融合が際立つ、現代アートを象徴する存在です。
パピー

パピー《Puppy》は、花で覆われた巨大な子犬の作品です。1992年に初公開されて以降、スペインのグッゲンハイム美術館の前に恒久設置されています。
鉄骨の構造に植栽が貼り付けられ、定期的に手入れされることで四季折々の姿がみられます。生命感とかわいらしさ、公共空間における芸術のあり方を示す、クーンズの代表的な作品の1つです。
掃除機

The Newシリーズに属する《掃除機》作品は、アクリルケースの中に新品の掃除機を展示するインスタレーションです。清潔・未使用という状態をそのまま保存することで、消費社会における美と欲望の象徴を静的に表現しています。
クーンズはこのシリーズで、日用品を神聖化するコンセプチュアルな試みに挑戦しました。
ジェフ・クーンズの代表的なコラボ作

クーンズは、美術館の外でもその存在感を放ち、有名企業とのコラボレーションを成功させてきました。ここからはコラボの一例として、ルイヴィトンとユニクロの作品を紹介します。
ルイヴィトン

クーンズは2017年にルイヴィトンと協業し、マスターズコレクションを発表しました。ダ・ヴィンチやゴッホなど歴史的名画をバッグや財布にプリントし、自分のサインやバルーン文字をあしらう独自の再解釈を施した作品です。
このシリーズは高級ブランドと現代アートの融合として話題を呼び、アートを日常に取り込む試みとして注目されました。
ユニクロ

出典:ユニクロ
ユニクロとのコラボでは、クーンズの代表作をモチーフにしたTシャツやパーカーを展開しました。ラビットやバルーンドッグなどの作品が大胆にプリントされ、アートを手軽に身に着けられるアイテムとして好評を博しています。
美術館とは異なる文脈で作品が再評価されることで、クーンズの表現はさらに幅広い層に浸透しました。
ジェフ・クーンズの作品が展示されている美術館

ジェフ・クーンズの作品は、美術市場での高い評価と話題性から、世界中の有名美術館に収蔵・展示されています。その圧倒的な存在感とポップな表現は、多くの来館者を惹きつけるほどです。ここでは、特に代表的な美術館を紹介します。
ビルバオ・グッゲンハイム美術館

スペイン・ビルバオにあるグッゲンハイム美術館は、世界中から注目を集める現代アートの聖地として知られています。
このグッゲンハイム美術館の正面には、クーンズの代表作《Puppy》が常設展示されています。高さ12メートルもの犬の彫刻は、無数の季節の花々で覆われ、訪れる人々を圧倒する存在感です。
館内には、鏡面仕上げのステンレスによる《Tulips(チューリップ)》も展示されています。カラフルで祝祭的な花束が空間に華やぎをもたらし、クーンズの作品に通底する美学と消費文化の象徴性を体現しています。
開館時間 | 10:00〜20:00 |
観覧料 | 9~18ユーロ |
休館日 | 月曜(7〜8月は無休)、12月25日、1月1日 |
アクセス | 地下鉄:Moyua駅徒歩10分トラム:Guggenheim駅徒歩2分 |
HP | https://www.guggenheim-bilbao.eus/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
ニューヨーク近代美術館

出典:ニューヨーク近代美術館
アメリカ・ニューヨークの中心部にあるMoMA(ニューヨーク近代美術館)は、世界屈指の現代美術館です。この美術館には、《New Shelton Wet/Dry Doubledecker》や、《Three Ball 50/50 Tank》などが所蔵されています。
また、《Pink Panther》や《Puppy(Vase)》などもコレクションに含まれ、MoMAでは過去に数多くの企画展でも彼の作品が紹介されてきました。芸術と大衆文化の境界を問い直すクーンズの試みに触れられる、貴重な場所といえるでしょう。
開館時間 | 10:30〜17:30 |
観覧料 | 17~30ドル |
休館日 | 感謝祭、クリスマス |
アクセス | 地下鉄E線5番街/53丁目駅より徒歩4分 |
HP | https://www.moma.org/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
まとめ

この記事では、ジェフ・クーンズとはどんな人物なのか、詳しく解説しました。クーンズのポップアートの枠を超えた壮大な作品群や、作家としての異質な立ち位置は、多くの人々からの関心を集めています。
クーンズの作品は賛否両論ありますが、存命のアーティストで最高落札額をほこる実績があるのも確かです。この記事を参考に、ジェフ・クーンズの作品に触れ、その魅力を体感してみてください。
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