アートリエ編集部が、カラヴァッジョについて詳しく解説します。
カラヴァッジョは「光と影の魔術師」として知られている、西洋美術史の重要人物です。「カラヴァッジョの代表作とは?」「どのような生涯を送ったの?」と気になる方も多いでしょう。
そこでこの記事では、カラヴァッジョの代表作を紹介し、彼が生み出した独自の技法や劇的な人生を詳しく解説します。この記事を読めば、カラヴァッジョの代表作や西洋美術に与えた影響を理解できるので、ぜひ参考にしてみてください。
カラヴァッジョの有名な作品

出典:Wikipedia
ここでは、カラヴァッジョの代表作をみていきましょう。紹介するのは以下の6作品です。
- バッカス
- 果物籠
- 法悦のマグダラのマリア
- メデューサの首
- ナルキッソス
- 聖マタイの召命
1つずつ詳しく解説します。
バッカス
出典:WIKIART
カラヴァッジョの「バッカス」は、鑑賞者を誘惑するような構図と写実的な表現が特徴の作品です。カラヴァッジョは、バッカスを単なる神ではなく、人々が身近に感じる存在として描きました。
この絵では、頬を紅潮させたバッカスが、ワインの入った杯をこちらに差し出している場面が描かれています。卓上には精巧に描かれた果物が並び、右手は衣服の帯をほどこうとしているように見えるでしょう。
この動作により、ワインだけでなく、酩酊や快楽への誘いまでもが感じられます。カラヴァッジョの技法によって、神話上の存在であるバッカスが、まるで目の前にいるかのように感じられる1枚です。
果物籠
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カラヴァッジョの「果物籠」は、静物画でありながら写実主義を象徴する作品として、高く評価されている代表作の1つです。カラヴァッジョは、理想化された美しさではなく、ありのままの現実を描くことにこだわっています。
「果物籠」においてもよく観察すると、果物には水滴が浮かび、虫食いや枯れかけた葉が繊細に描かれています。このリアルな表現は宗教画にも通じるものがあり、従来の絵画では避けられてきた衰えや欠陥さえも描くことで、「真実」を追求しました。
静物画については、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
法悦のマグダラのマリア
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カラヴァッジョが1606年に制作した「法悦のマグダラのマリア」は、彼の晩年を象徴する宗教画の1つです。カラヴァッジョが死の直前まで手元に置いていたことからも、この作品への特別な思い入れがうかがえます。
法悦に浸るマグダラのマリアが描かれている作品は、意識がこの世を超えた境地にあることを暗示しています。従来の理想化された聖女像とは異なり、カラヴァッジョはマリアを血の通った生身の女性として描き、リアリティを持たせました。
カラヴァッジョはこのシリーズを複数制作しており、原画とコピーには細かな違いがみられます。
メデューサの首
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カラヴァッジョの「メデューサの首」は、ギリシャ神話に登場する怪物の恐怖と劇的な瞬間を見事に捉えた作品です。1596年に最初のバージョンが制作され、1597〜1598年頃に2作目が描かれました。
2作目はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵され、広く知られています。「メデューサの首」の特徴は、頭部が盾に描かれていることです。ローマのメディチ家の代理人、デル・モンテ枢機卿の依頼によって制作され、戦いの象徴として儀式用の盾に施されました。
カラヴァッジョは、首を切り落とされた直後のメデューサの生々しい表情を描き、まだ意識を保っているような迫力を描いています。
ナルキッソス
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カラヴァッジョの「ナルキッソス」は、自己愛に囚われた青年の悲劇を象徴的に描いた作品です。「ナルキッソス」は、古代ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」に登場するナルキッソスの神話を題材にしています。
ナルキッソスは泉に映る自分の姿に恋をして離れられず、最終的には命を落とす運命にありました。カラヴァッジョはこの物語を暗闇の中に閉じ込めるような構図で表現し、ナルキッソスの自己陶酔と孤独を強調しています。
「ナルキッソス」は、カラヴァッジョの独特な光と影の表現が際立っている代表作の1つです。
聖マタイの召命
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「聖マタイの召命」は、カラヴァッジョが1599年から1600年にかけて制作した宗教画で、光と影の劇的な表現が特徴の傑作です。新約聖書の「マタイによる福音書」に基づいており、イエス・キリストが税吏マタイを弟子として召し出す場面が描かれました。
カラヴァッジョは、イエスがマタイを指差し、彼が驚いた様子で自らを指す瞬間を捉えています。光の使い方が印象的で、イエスの神聖さとマタイの驚く表情に目をひかれるでしょう。
本作は、ローマのサン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会に現存され、「聖マタイの霊感」と「聖マタイの殉教」とともに展示されています。
カラヴァッジョとは?何がすごいのか
出典:Wikipedia
そもそもカラヴァッジョとはどのような画家だったのか、ここからはカラヴァッジョの技法や美術史に与えた影響を紹介します。
バロック美術に影響を与えた画家
カラヴァッジョは、光と影のコントラストを駆使し徹底した写実表現を追求したことで、バロック美術に大きな影響を与えました。
それまでの美術は理想化された人物表現が主流でしたが、カラヴァッジョは現実に存在する人々をモデルにし、リアルな感情を表現しています。また、明暗の強調(キアロスクーロ)によって劇的な効果を生み出し、絵画に奥行きと緊張感をもたらしました。
この革新的な技法は彼の同時代の画家だけでなく、スペインやフランス、オランダの画家たちにも影響を与えます。バロック画家の代表格であるヨハネス・フェルメールも影響を受けた画家の1人で、奥行きのある数々の作品を残しています。
ヨハネス・フェルメールについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
カラヴァッジョの天才的な技法
カラヴァッジョは、光と影を極端に対比させる「キアロスクーロ」技法を発展させ、劇的な演出を可能にしました。
カラヴァッジョは単なる陰影表現を超え、強烈な光を用いることで人物の表情や質感をリアルに表現しました。画面の一方に光源を定め、暗闇とのコントラストを最大限に活用しています。
技法により、まるで舞台上のスポットライトを浴びたかのような、ドラマティックな雰囲気を作り出しました。
カラヴァッジョの生涯
出典:Wikipedia
ここからは、カラヴァッジョの生涯をみていきましょう。幼少期から晩年まで解説します。
幼少期とミラノ時代|両親の死と修行時代
カラヴァッジョの人生は、幼少期から波乱に満ちており、その経験が彼の独特な画風を形作る要因となりました。1571年、ミケランジェロ・メリージ(後のカラヴァッジョ)は、イタリア・ミラノ近郊のカラヴァッジョ村で生まれました。
しかし、5歳のときにペストの流行で父と祖父母を失い、13歳で母親も他界しています。
1584年、13歳ごろに、カラヴァッジョはミラノの画家シモーネ・ペテルツァーノのもとで修行を開始します。この時期は静物画や肖像画を描いていたとされますが、現存する作品はほとんど残されていないようです。
ローマ時代|革新的な作風と成功
1592年、21歳のカラヴァッジョはローマに移り、貧困の中で工房を渡り歩きました。その最中に、カラヴァッジョの才能を認めたフランチェスコ・デル・モンテ枢機卿がパトロンとなり、援助を始めます。この支援が、カラヴァッジョの成功への大きな転機となりました。
カラヴァッジョは静物画や風俗画を描き、後には祭壇画なども手がけるようになります。特に、彼の光と影を巧みに操った表現技術は当時の教会や貴族から高く評価され、次々と注文が入るようになりました。
ローマでの成功は、カラヴァッジョをイタリア美術界の中心的な存在に押し上げ、後世の画家たちにも大きな影響を与えています。
逃亡と晩年|殺人事件と謎の死
カラヴァッジョの性格は短気で怒りっぽく、数々の騒動を起こしており、何度も逮捕されていたようです。1606年には口論の末、殺人まで犯してしまい、死刑を宣告されました。
死刑を逃れるためにローマから逃亡したカラヴァッジョは、反省の意味を込めて「エマオの晩餐」や「ゴリアテの首を持つダビデ」を描きます。どちらもカラヴァッジョが処刑された場面が描かれており、「過去の自分はもう死んだ」と訴えかけていたようです。
その後、ナポリへ移り教皇からの恩赦を求めましたが、願いは叶いませんでした。恩赦を期待しながらローマに戻る途中に、謎の死を遂げます。死因は過労や熱病、鉛中毒などといわれています。
カラヴァッジョの作品が無料で見られる場所

出典:Wikipedia
カラヴァッジョの作品を無料で見られる場所はサンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂と、サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会です。それぞれの特徴を詳しく紹介します。
サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂
サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂は、「カラヴァッジョの礼拝堂」として知られる場所があり、無料で鑑賞が可能です。1602年ころに描かれた2枚の祭壇画が現在も残っており、カラヴァッジョの革新的な表現が楽しめます。
右側の「聖パウロの改宗」は、回心の瞬間を迫力ある構図で描き、左側の「聖ペトロの磔刑」では逆さ十字架の描写が印象的です。
これらは、カラヴァッジョがいかに写実的な表現に挑戦したかを示す作品といえるでしょう。
開館時間 | 平日:8:30~9:45、10:30〜12:00、16:00〜18:00 祝日:16:30〜18:00 |
休館日 | 平日:8:00、10:00、18:30 祝日:8:00、10:00、11:00、12:00、18:30 |
アクセス | Flaminioから徒歩3分 |
HP | https://santamariadelpopoloroma.it/it/home/ |
※営業時間や休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会
サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会のコンタレッリ礼拝堂には、カラヴァッジョの3つの作品が展示されています。作品は「聖マタイの召命」「聖マタイと天使」「聖マタイの殉教」の3作品です。
「聖マタイの召命」では、マタイがイエスに呼びかけられる瞬間を描いており、その構図にはさまざまな考察が存在します。「聖マタイと天使」では、天使が登場し、マタイに旧約聖書の預言者の名前を伝えるシーンが描かれました。
サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会の幻想的な雰囲気と共に、カラヴァッジョらしいドラマ性を感じられるでしょう。
開館時間 | 月~金:9:30~12:45、14:30~18:30 土:9:30~12:00、14:30~18:30 日:12:00~12:45、14:30~18:30 |
休館日 | 毎月第1水曜日の午前中 |
アクセス | Senatoから徒歩3分 |
HP | https://saintlouis-rome.net/ |
※営業時間や休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
カラヴァッジョの作品が見られる美術館

出典:Wikipedia
カラヴァッジョの作品を所蔵している主な美術館は、以下の4つです。
- ボルゲーゼ美術館
- ウフィツィ美術館
- メトロポリタン美術館
- プラド美術館
それぞれ詳しく解説します。
ボルゲーゼ美術館
出典:Wikipedia
ローマのボルゲーゼ美術館には、「病めるバッカス」「ゴリアテの頭を持つダヴィデ」などが所蔵されています。
ボルゲーゼ美術館は、カラヴァッジョ独自の写実的な表現やドラマティックな構図を堪能でき、芸術を深く理解するのに最適な場所といえるでしょう。
開館時間 | 9:00~19:00 |
観覧料 | 一般:13ユーロ 18~25歳:2ユーロ 18歳未満:無料 |
休館日 | 月曜、1/1、5/1、12/25 |
アクセス | Barberiniから徒歩18分 |
HP | https://galleriaborghese.beniculturali.it/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
ウフィツィ美術館
出典:ウフィツィ美術館
イタリアのフィレンツェにあるウフィツィ美術館には「イサクの犠牲」「メドゥーサの首」「バッカス」が所蔵されています。これらはカラヴァッジョのドラマチックなスタイルと、写実的な表現が色濃く反映されている作品です。
ウフィツィ美術館はルネサンス絵画で有名な美術館でもあり、ヨーロッパ最古の美術館の1つともいわれています。
開館時間 | 8:15~18:30 |
観覧料 | 25ユーロ |
休館日 | 毎週月曜日、1月1日、12月25日 |
アクセス | フィレンツェ駅から徒歩20分 |
HP | https://www.uffizi.it/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
メトロポリタン美術館
出典:メトロポリタン美術館
メトロポリタン美術館には、「若者たちの合奏」「聖ペテロの否認」「女占い師」などが所蔵されています。これらの作品からは、カラヴァッジョのリアリズムと光と影を巧みに使った表現が強く感じられるでしょう。
メトロポリタン美術館は、アメリカのニューヨーク市マンハッタンにある、世界最大の美術館の1つです。1870年に開館した後は、さまざまなコレクターにより寄贈されて、収蔵品が増えていきました。
開館時間 | 10:00~17:00(金、土のみ10:00~21:00) |
観覧料 | 大人:30ドル シニア(65歳以上):22ドル 学生:17ドル 子ども(12歳未満):無料 |
休館日 | 水曜日 |
アクセス | 地下鉄4・5・6線86ストリート(86 St)駅から徒歩10分 |
HP | https://www.metmuseum.org/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
プラド美術館
出典:Wikipedia
プラド美術館では、カラヴァッジョの「エッケ・ホモ」が所蔵されています。スペインのマドリードにあるプラド美術館には、スペイン王家歴代のコレクションが多数所蔵されています。ヨーロッパ絵画を展示する世界有数の美術館として知られています。
2021年には、これまで弟子の作品とされていた「エッケ・ホモ」の絵画が、カラヴァッジョ本人の可能性があるとしてオークション前に販売停止となり、スペイン文化省が輸出を禁止する騒動もありました。専門家の間では真作とする意見もあり、話題を呼びました。
開館時間 | 月~土:10:00~20:00 日・祝:10:00~19:00 |
観覧料 | |
休館日 | 1月1日、5月1日、12月25日 |
アクセス | Estación del Arteから徒歩9分 |
HP | https://www.museodelprado.es/ |
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更になる場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
まとめ

出典:Wikipedia
この記事ではバロック時代を代表する画家、カラヴァッジョの生涯と代表作を詳しく解説しました。カラヴァッジョは、リアリズムとドラマチックな光の使い方を駆使した作品で有名な画家です。
光と影を巧みに操り、登場人物の感情を引き立てる手法が特徴的で、多くの画家に影響を与えました。カラヴァッジョの作風は、バロック美術の特徴である動きと劇的な表現を象徴しています。
この記事を参考に、カラヴァッジョの作品やその技法を深く理解し、美の世界を堪能してみてください。
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