奈良美智は、青森県弘前市出身の日本を代表する現代アーティストです。睨みつけるような少女をモチーフにした作風が特徴で、今や世界的にも高い評価を受けています。
この記事では、奈良美智の来歴から画風、村上隆とのつながり、代表作まで徹底解説します。奈良美智の作品を収蔵する美術館も紹介するので、ぜひこの記事を最後まで読んでみてください。
奈良美智とは?
奈良美智は、1959年に青森県弘前市で生まれました。高校は地元の青森県立弘前高等学校に入学し、高校を卒業後に上京します。美術の道を目指し武蔵野美術大学に入学しましたが、学内で何もインスピレーションを得られず1年で中退しました。
その後、20歳のころに1年間だけ有効のヨーロッパの往復チケットを購入して、3ヶ月程度放浪の旅に出かけます。そして、一度日本の大学に改めて入学しつつも再度ヨーロッパを訪問しています。1988年の28歳のときには、ドイツに渡りドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーを修了しました。
2000年8月に日本に帰国し、東京都西多摩郡瑞穂町に活動拠点を置いています。その後、2005年に栃木県の那須高原に転居して以降、那須高原で活動を続けています。
奈良美智の来歴
ここでは、奈良美智の来歴についてより詳しく解説します。どのようなバックボーンで作品が誕生しているのかを知ることで、作品の魅力をより実感できるでしょう。
生い立ち
奈良美智は3人兄弟の末っ子として生まれましたが、2人の兄とはかなり年が離れていました。両親は共働きであり、家にいないことが多い関係上、自宅では空想しながら絵を描いていたそうです。この時の経験が、今の奈良美智が実施している創造活動の根源となっているのでしょう。
高校卒業後には、東京五美大の1つとして知られる東京造形大学の彫刻科に合格しました。しかし、自分が本当にやりたいことは絵画だと気づき、1浪して武蔵野美術大学の絵画科に入学しています。さらに、20歳の時にヨーロッパやパキスタンに放浪の旅に出ることを決意し、武蔵野美術大学を中退しました。
そして、授業料が安い愛知県立芸術大学に再入学するなど、大胆で冒険心がある一面を持ち合わせています。大学院卒業後の1987年には、ヨーロッパ旅行で訪問したドイツでの滞在をきっかけに、ドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学しました。
幼少期とアートへの影響
家から小学校までの距離は近かったものの、わざと遠回りして帰っていたと語っています。幼少期の1人で過ごす時間が多かった経験が、今も奈良美智の根源にあるのです。10代になり、ラジオの深夜放送で耳にした海外の音楽に魅了され、辞書を片手に言葉の意味を調べるようになりました。
これが奈良美智の想像力や創造力に大きく影響しているのかもしれません。実際に、以下のアーティストのCDジャケットを手掛けた実績があります。
- 少年ナイフ
- bloodthirsty butchers
- THE STAR CLUB
- マシュー・スウィート
- R.E.M.
以上のように、幼少期からアートに関して大きな影響を受けていることがわかります。
デュッセルドルフ時代
1988年にドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学した奈良美智ですが、ここでA.R.ペンクとの出会いを果たします。A.R.ペンクは、ドイツ固有の歴史を背景として、独創的な境地を切り開いている現代美術の作家です。A.R.ペンクに師事したことが、その後の奈良美智の作品に大きな影響を与えています。
1993年にデュッセルドルフ芸術アカデミーを卒業した後、2000年までケルン郊外でアトリエを構えて作品を作り続けました。その後、12年間のドイツ生活に区切りをつけ、日本へ帰国しました。
奈良美智の画風
奈良美智の作り出す作品には、独特な雰囲気があります。創作活動を始めた初期の段階から、子どもたちの身近な姿を形にしたイラストレーションが中心です。ここでは、奈良美智の画風をより詳しくみていきましょう。
子どもの絵を描く理由
子どもをモチーフとした作品で有名な奈良美智ですが、子どもの絵を描き続けるのには理由があります。これは、過去の体験を自分が見つめ直すことができているためです。自分がみてきた風景が、そのまま作品として表現されているのです。
過去の自分が、子どもであったり、ハンディキャップを抱えていたりする弱者の人たちと重複すると語っています。そして、それがシンクロする形で絵が生まれてきています。目の釣り上がった女の子を描いた一連のドローイングは、日本人にとっては理解しにくいところがあるかもしれません。
これも、すべては奈良美智の過去の経験から生まれています。
スーパーフラット
奈良美智の画風は、スーパーフラットと呼ばれる概念に近い作品が多いです。スーパーフラットは平面的かつ二次元的な絵画空間を持ち、余白が多く、遠近法といった技法を多用しないことで知られています。
奈良美智の場合、鮮やかな色彩やパターン、日本の漫画のシンボルなどを使用して現代の過剰消費文化をテーマとしているケースが多いです。
平等を訴えるメッセージ
奈良美智は、平等を訴えるメッセージも発信しています。安保関連法案が国民的な議論を呼んでいた2014年末、戦争をテーマにした画集「NO WAR!」が出版されました。
「NO WAR!」では、怒りの表情を浮かべた爆撃機が飛行し、女の子が核戦争のキノコ雲が掲載された新聞を開いています。「あきらめるなんて死ぬまでないはず」というフレーズとともに、零戦を想像させる飛行機が空を埋めつくしています。明確なメッセージが強く発せられた作品として高い注目を集めました。
奈良美智のエピソード
奈良美智のエピソードを語るうえで、以下の2つは欠かせません。
- 村上隆とのつながり
- パンクミュージック
各エピソードについて詳しく解説します。
村上隆とのつながり
奈良美智と非常に関係性が深い人物として、村上隆が挙げられます。奈良美智の作風としてスーパーフラットが挙げられますが、スーパーフラット自体には正式に参加していません。ただし、スーパーフラットを提唱している村上隆との間では、ほかにも多くの活動を展開しています。
2018年には村上隆が主宰しているKaikai Kiki Galleryの取り扱い作家となり、個展 「Drawings:1988-2018 Last 30 Years」を開催し、大きな反響を呼びました。また、2017年には「村上隆のスーパーフラット現代陶芸考」において、特別対談を行っています。
パンクミュージック
奈良美智と切っても切り離せないのがパンクミュージックです。実際、奈良美智の作品の多くはパンクミュージックが持ち合わせる強いリズムに影響されています。また、反抗や抵抗の精神を込めた作品が多いのも特徴です。
鋭い目つきの幼い少女は、奈良美智の代表的なモチーフとなっています。奈良美智が作品作りに取り組むときは、音楽を流していることが知られています。また、高校時代には友人とロック喫茶を作ったという逸話もあるほどです。
さらに、ラジオの音楽番組のパーソナリティを担当するなど、音楽との密接な関係性を保ち続けています。
奈良美智の代表作
奈良美智は、さまざまな作品を発表しています。その中で、特に代表作として名高いのが以下の4作品です。
- ナイフ・ビハインド・バック
- あおもり犬
- 春少女
- Miss Forest
各作品の詳細は、以下のとおりです。
ナイフ・ビハインド・バック
ナイフ・ビハインド・バックは、2000年に制作されたアクリル作品です。2019年にサザビーズが開催したオークションにおいて、当時の自身の作品の最高額となる約2,500万ドルで落札されたことで有名です。
タイトルにナイフの存在が記述されており、キャンバスには描かないことでより威嚇的に感じられるという特徴があります。
また、ナイフの脅威をあえて隠すことにより、子どもたちの予期せぬ反乱力や過激性が感じられます。
あおもり犬
あおもり犬は、青森県立美術館の屋外スペースに設置された作品です。美術館に隣接している三内丸山遺跡を意識して制作されており、下半身は地中に埋もれています。
顔はうつむき気味で、どこか哀しげにみえます。奈良美智が犬を表現したのは、幼少期に飼えずに山に置き去りにせざるを得なかった子犬への思いがあるためです。
高さが8.5m、幅が6.7mもある巨大な作品であり、青森県立美術館のなかでもインパクトの強い作品です。
春少女
春少女は、2012年に発表された作品です。1年前の2011年に東日本大震災が発生したことを受け、震災から復興にかけて人間の連帯感や生命力を表現しています。奈良美智が制作した作品の中でも、目がやさしくカラフルであり異色な作品です。
作品に登場している子どものイメージは、絵描きや漫画によって寂しさを紛らわせていた自分の姿を投影しています。コクトーのアンファン・テリブルを連想させる、残忍さを秘めたかわいさが魅力的です。
Miss Forest
Miss Forestは、あおもり犬と同じく青森県立美術館にある作品です。高さ6m程度のブロンズ像であり、奈良美智がデザインした八角堂の中にあります。はるか昔から存在しているかのように、鎮座しているのが特徴です。
風のそよぎや鳥のさえずり、降りしきる雪などの周囲の自然とともに語り出すような魅力があります。訪れる人に対して、親密な対話のときをもたらしてくれるのが特徴です。
奈良美智の作品を収蔵する主な美術館
奈良美智の作品が収蔵されている美術館として、以下の美術館が有名です。
- ニューヨーク近代美術館 (MoMA)
- ロサンゼルス現代美術館
- 東京国立近代美術館(東京都)
- 横浜美術館(神奈川県)
各美術館について、詳しくみていきましょう。
※営業時間や入館料、休館日などの情報は変更される場合があります。最新情報については公式ウェブサイトにてご確認ください。
ニューヨーク近代美術館 (MoMA)

ニューヨーク近代美術館は、英文館名の頭文字をとり「MoMA」の名称でも有名な美術館です。20世紀以降、現代美術の発展と普及に対して多大な貢献を果たしています。
近代美術館設立の構想は、以下の3名の女性によって草案されました。
- L.P.ブリス
- C.J.サリヴァン夫人
- J.D.ロックフェラー2世夫人
開館したのは1929年であり、昭和初期にすでに前衛美術専門の美術館の設立が構想されていたのです。2004年には、谷口吉生のコンペ案が採用されて全面改装と増築が行われたことでも有名です。
ロサンゼルス現代美術館
出典:Wikipedia
ロサンゼルス現代美術館は、ロサンゼルス市にある近現代美術専門の美術館です。ダウンタウンのグランド通りに本館があり、ほかにも以下の場所に施設があります。
- ゲフィン・コンテンポラリー・アット・MOCA(リトルトーキョー)
- パシフィック・デザイン・センター(ウェストハリウッド)
この美術館の所蔵品の90%が個人からの寄贈であり、多くの作品を鑑賞できます。また、前衛的な企画展を定期的に開催しており、一般的な美術館とは一線を画している点が魅力的です。
併設されているギフトショップでは、地元アーティストが手がけた商品を購入できます。
東京国立近代美術館(東京都)

東京国立近代美術館は、皇居のほど近くにある日本で最初の国立美術館として有名です。横山大観や岸田劉生などの重要文化財を含む、13,000点程度の近現代美術の作品を有しています。
時宜に適ったテーマや切り口によって、会期ごとに200点程度が展示されています。奈良美智の作品としては、1994年に制作されたHarmless Kittyをみることが可能です。
また、MOMATのコレクションよりセレクトした「奈良美智がえらぶ MOMATコレクション 近代風景〜人と景色、そのまにまに〜」が開催された実績もあります。
横浜美術館(神奈川県)
出典:横浜美術館公式サイト
横浜美術館は、高層ビルが立ち並んでいるみなとみらいの中央に位置している美術館です。緑が豊かなグランモール公園を抜けると、モダンな雰囲気の美術館を目の当たりにします。
横浜美術館は2025年2月8日に全館オープンを迎え、これを記念して「おかえり、ヨコハマ」展が開催される予定です。セザンヌやピカソ、マグリットの名作から、奈良美智の作品まで楽しめます。2012年には、奈良美智展が開催されています。
まとめ
奈良美智は、独特な作風で多くのファンがいる現代アーティストです。東日本大震災発生後、6ヶ月もの間1枚しか描けなくなるほどのショックを受けた中で、名作である春少女が誕生しました。
オークションハウスでは、2015年以降は大きなトレンドリーダーとなっています。あおもり犬など、独特な巨大な作品も魅力的であり、今後も多くの名作を生み出すことでしょう。