KAWSという名前は知らなくても、目が「X」になったキャラクターに見覚えがある人は多いのではないでしょうか。ユニクロをはじめとする有名ブランドとのコラボで知られるKAWSは、フィギュアから絵画にいたるまで、マルチに活躍するアメリカのアーティストです。
バンクシーに迫る人気を誇るといわれるKAWSとはどんなアーティストなのでしょうか。 KAWSの魅力や特徴を、アートリエ編集部が詳しく解説します。
KAWSとは
KAWSは1974年生まれ、アメリカのアーティストです。ストリートアートやポップカルチャーを融合させた独自の世界を展開、ニューヨークの路上アーティストから世界的な現象を生み出す芸術家へと成長しました。
X印の目が特徴のキャラクターがKAWSの看板ですが、絵画や彫刻、グラフィックデザインなど、幅広い活躍を見せています。子どもの心とアーティストとしての円熟が矛盾なく共存するKAWSの作品は、世界的な人気を博しています。
アートトイの先駆者ともいわれ、親しみやすいキャラクターを用いた作品は若い世代にも大人気。Instagramのフォロワーは400万人を超えます。
カラフルでシンプルで力強い。そして身近に感じることができるアート。それがKAWSの人気を支える要素となっています。
KAWSの来歴
アーティストとして波に乗っているKAWS。彼の来歴を追ってみましょう。
生い立ち
KAWSの本名はブライアン・ドネリー。1974年、ニュージャージー州のジャージーシティに生まれました。1980年代のニューヨークの空気の中で育ったドネリーは、10代のころからジャージーシティだけではなく、ブルックリンやマンハッタンでスケートボードをしていました。
1996年、ドネリーはマンハッタンのスクール・オブ・ビジュアル・アーツを卒業。KAWSというタグを使い始めたのは10代のころ、ニューヨークを中心にグラフィティアートをはじめた頃のことです。
当時からKAWSの作品はそれとわかる特徴があり、ストリートアート愛好者のあいだで人気がありました。
キャリア初期
1996年に美術学校を卒業したKAWSは、アニメーションの世界で仕事を開始。ジャンボ・ピクチャーズでディズニーアニメの『101匹わんちゃん』などに携わり、絵画のスキルを磨きました。
KAWSの魅力は、ミニマリズム風のシンプルさやシュルレアリスムのようなタッチにあるといわれますが、アニメーションの世界でキャリア初期に培われた画力がのちの成功のベースになったという説もあります。
KAWSのストリートアート風の作品は、パリやロンドン、東京でも注目されるようになりました。20代に入った頃には日本のバウンティハンターと作品を制作。コレクターや批評家もKAWSのソーシャルアカウントをフォローするようになり、1998年にはペルノ・リキッド・アート・アワーズを受賞。
KAWSの名を世界に知らしめたのは、「アートトイ」と呼ばれるシリーズ。《コンパニオン》と名づけられた作品群は、ミッキーマウスやシンプソンズなどがテーマになっています。KAWSのトレードマークとなっている「XX」の目で共通していて、アートの世界とは無縁だった若者も巻き込む潮流となりました。
自身のウェブサイトを開設
KAWSが若い世代にも支持される理由のひとつ。それは、2002年に早くも自身のウエブサイトを開設したことがあげられます。美術館を介さずファンと直接触れ合えるスペースを作ったことで、アートに興味がない人たちにも近しい存在となったのです。2012年にはインスタグラムのアカウントも登場、数々の作品を発信してきました。
美術館に行かなくてもアーティストの作品が鑑賞できること、アーティストが今現在興味を持っていることやどこで活動しているかがわかるなど、ファンにとっては嬉しい情報が誰でも簡単に入手できる戦略。これが功を奏しました。
KAWSと空間を共有しているような気分になれるという時代に即した戦略によって、KAWSの知名度や人気は大きく向上しました。
エマニュエル・ペロタンへ所属
知名度が上がったとはいえ、キャリア初期のKAWSは美術界の慣習などにも無知であったと語っています。
2008年、KAWSはフランス人の美術商エマニュエル・ペロタンに所属し、一流アーティストの仲間入りをしました。パリやニューヨーク、東京にもギャラリーを持ち、30年以上のキャリアを誇るペロタンによって、KAWSの名前や作品は世界へと普及。
突出した価値ある作品を生み出すアーティストとして、世界中から注目されています。
KAWSの作風やエピソード
キュートなのにどこか哲学も感じるKAWSの作品。KAWSの作風やエピソードをご紹介します。
xxの目のキャラクター
KAWSといえば「XX」の目がトレードマーク。この目にはどんな意味があるのでしょうか。
「XX」の解釈はさまざまですが、ストリートアーティスト出身のKAWSらしいアイロニーが込められているという説があります。世の中でもてはやされているキャラクターと死を結び付けていると解釈する批評家もいれば、数学やメディア、ゲームなどでも利用される普遍的な記号を用いることで、鑑賞者の想像を鼓舞するという説も。
ごくシンプルに、「X」に「キス」を感じる若者も多いのだとか。鑑賞する人によってイメージが変わるところが魅力的です。
骨の形をした手足
「XX」の目と並んでKAWSの特徴的な表現に、「骨」があります。キャラの頭部に交差する骨が描かれていたり、骨の形をした手足が表現されていることもあります。また人形の半分の内臓や骨がむき出しになっている作品も目にします。可愛いイメージに惹かれて鑑賞した人には、かなり強いインパクト。
KAWSが表現する骨は、ジェフ・クーンズやダミアン・ハーストの作品と同じように、大衆文化に精神性を持たせる効果があるといわれています。
有名キャラクターの再解釈
ディズニーや漫画のキャラクターを利用したKAWSのアートは、象徴的なヒーローや人気キャラが瞬く間に別の芸術となることを証明しました。
普遍的と思われていた人気キャラの文化的価値は、「XX」の目や骨によって、大衆文化から近代アートへと牽引する存在となるのです。
KAWSのアイロニーや哲学が反映された有名キャラクターたちは、彼のキャリアの中でも最高の作品とされています。
日本のアニメからの影響
KAWSは1997年以降、何度か日本を訪れ、日本のアニメ文化に触れています。日本のアニメや漫画の文化の奥深さを知るだけではなく、それらに熱狂するいわゆる「オタク文化」に触れたことは、KAWSの作品に少なからぬ影響を与えたといわれています。
アニメのキャラクターには言葉を超えたコミュニケーション力があることを、日本語を解さないKAWSは日本で実感し、作品にその認識を反映させています。
広告看板の改変
KAWSは10代のストリートアーティストのころから、バス停や電話ボックス、看板などに作品を描くことが多々ありました。既存の看板を改変するこの技法は、「サブバータイジング(Subvertising)」と呼ばれています。「Subvert(覆す)」と「Advertising(宣伝する)」という言葉から生まれたもので、キャリアの初期からKAWSが得意とする技法です。
広告に「介入」することで見る人に刺激を与える新たなアートのスタイルは、多くの人の共感を得ました。
「COMPANION」シリーズ
KAWSの代表作品といえるのが「COMPANION」シリーズです。COMPANIONの誕生には、日本のブランドが関わっていました。
1997年、KAWSは日本を訪れバウンティハンターのデザイナー岩永光氏、ヘクティクの江川芳文氏と親しくなります。彼らとのコラボで1999年に登場したのが、目が「XX」のCOMPANIONシリーズでした。
若き才能が集結して生まれたこのシリーズ、「仲間」や「相棒」というシリーズ名にふさわしく、どこか人々の心を和ませてくれる魅力があります。
ファッション業界とのコラボレーション
COMPANIONシリーズで世界的なアーティストとなったKAWSは、ファッション業界との蜜月関係を築きます。
コム・デ・ギャルソン、ナイキ、クリスチャン・ディオール、シュプリームなど、大手のブランドとのコラボが引く手あまた。とくにユニクロとのコラボによって、KAWSの名は日本でも浸透しました。販売されたコラボ商品は、売切れ続出になるほどの人気を誇ります。
KAWSの代表作
キュートだったりシュールだったり、不主義な魅力のあるKAWSの作品たち。とくに有名な代表作についてご紹介します。
COMPANION(コンパニオン)
1999年、KAWSがバウンティハンターのおもちゃのフィギュアとして販売開始した「COMPANION(コンパニオン)」。500体限定の商品はあっというまに完売。「XX」の目が印象的なCOMPANIONは、またたくまにKAWSファンにとってのマストアイテムになりました。
2013年のMTV VMA アワーズのトロフィーにも登場したCONPANIONは、アートの世界を超えて、多く人の共感を得るアイコンとなりました。誕生以来変わらぬ人気を保持しています。
ACCOMPLICE(アカンプリス)
出典:Artsy
COMPANIONに続いて、KAWSが2002年に発信したACCOMPLICE(アカンプリス)。「共犯者」といういたずらっぽいネーミングと、ピンクとホワイトのコンビの可愛らしさが魅力的な作品です。
COMPANIONやCHUMなどKAWSのキャラクターたちの多くは、KAWSが若い時代にグラフィティアートで描いていたものが多いのですが、ACCOMPLICEはオリジナルキャラとして登場。少し内気そうで不憫さを喚起させる表情が人気です。
BFF(ビーエフエフ)
2018年から2019年、クリスチャン・ディオール・コレクションの主役となったのが、KAWSのBFFです。「ベスト・フレンズ・フォーエバー」を意味するBFFは、セサミストリートのキャラクターを思わせるマペットスタイル。
デザイナー、キム・ジョーンズによるコレクションとKAWSのコラボは、劇場型の効果をもたらして大成功を収めました。
CHUM(チャム)
出典:Artnet
2002年、ACCOMPLICEと同時に発表された「CHUM(チャム)」。KAWSが以前から、グラフィティアートでも登場させていたお馴染みのキャラです。
CHUMはミシュランタイヤの顔、ミシュランマンをイメージさせる容姿ですが、頭部は一見してKAWSの作品とわかるのが特徴。複数のカラーが販売され、ポップな雰囲気で人気があります。
KAWS BOB(カウス ボブ)
フィギュアで有名なKAWS。絵画でも高い評価を得ています。アメリカのアニメ「スポンジ・ボブ」にインスピレーションを得た「KAWS BOB」は、主人公の海綿の表情がユーモラス。
2008年に描かれたKAWS BOBのシリーズ《AGAIN AND AGAIN》は、落札予想価格25万ポンドの4倍超となる103万ポンド(約2億円)をつけ、話題になりました。
KAWSを収蔵する主な美術館
アートとは無縁の若者にも愛好されるKAWSの作品。彼の作品を収蔵する主な美術館をご紹介します。
ブルックリン美術館(アメリカ)
1897年に設立されたブルックリン美術館は、古代エジプト美術から現代アートまで幅広いカテゴリーが鑑賞可能。ニューヨークで2番目の規模を誇る同美術館、KAWSが若き日を過ごした空気のなかで彼の作品を楽しめます。
木製の素材感が斬新な《Along the way》をはじめ、ACCOMPLICEの世界観を彷彿とさせる《Chair Pink》を収蔵しているほか、2021年には大規模なKAWS展「WHAT PRTY」が開催され大ニュースになりました。
ロサンゼルス現代美術館(アメリカ)
世界の富裕層たちに購入されていくKAWSの作品。美術館でお目にかかる機会は多くありません。ロサンゼルス現代美術館には《Not yet titled》を所有。またキュレーターたちによるKAWS関連のグッズや書籍も販売しています。
アメリカを代表するアメリカらしいアーティストのKAWS。近年は欧州をはじめ世界各国で美術展が開催されています。興味を持った方は、ぜひ各国の美術館の情報をチェックしてみてください。
まとめ:アートに興味がなかった人も巻き込んだKAWSの功績!
グラフィティアートからキャリアを開始し、独自の世界を作り上げたKAWS。日本のデザイナーやサブカルチャーの影響も受けたKAWSは、アートに無縁の人たちをも巻き込む大きな潮流を生みだしました。
誰もが知っているキャラクターからインスピレーションを得た作品は、親しみやすさとともにアイロニーや内面性も感じるものばかり。ハイブランドや身近なブランドとのコラボも多く、親近感がもてるアーティストです。
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