こんにちは、アートリエ編集部です。
今回は、シュルレアリスムの巨匠として知られるルネ・マグリットについて詳しく解説します。
彼の来歴や画風、そして代表作まで、幅広くご紹介。ルネ・マグリットの魅力を、存分に心いくまで確かめていきましょう。
ルネ・マグリットとは
ルネ・マグリット(René Magritte)は、20世紀のベルギーを代表するシュルレアリスムの画家です。
彼の作品は、日常の風景や物体を独特な方法で表現することで知られ、現実と非現実の境界を曖昧にする技法が特徴です。マグリットは1898年にベルギーのレシーヌで生まれ、1967年に亡くなるまでの間、数々の作品を制作し、美術界に影響を与えました。
マグリットの作品は、視覚的なパラドックスや言葉とイメージの関係を探求し続け、その独創的な表現手法は、現代でも多くの人々を魅了し続けています。彼の作品は、単に奇妙であるだけでなく、現実世界に対する挑戦と再解釈と捉えることもできます。絵画を見ていると、現実の見方を変えさせるような新しい視点が得られるはず。
彼の絵画の中で、我々の日常的な風景や物体は異なる文脈で再構成され、観る者の知覚に揺さぶりをかけるのです。
ルネ・マグリットの来歴やエピソード
ルネ・マグリットの人生には、彼の芸術に影響を与えた多くの興味深い出来事があります。
ここからは彼の生い立ちから、重要な出会いやエピソードまで、彼の来歴を詳しく見ていきましょう。
生い立ち
ルネ・マグリットは1898年、ベルギーのレシーヌで生まれました。幼少期から絵に興味を持ち、幼い頃から油絵を始めていました。また、13歳のときに彼の母親が自殺したことは、その後の作品にも影響を及ぼしました。この悲劇的な経験は、彼の作品における死や神秘性のテーマに反映されていると言われています。
マグリットの母親の死は、彼が13歳のころに起こりました。幼い頃に起きてしまったこの出来事は彼の心に深い傷を残し、その後の作品において繰り返し描かれるテーマとなったとみられます。たとえば、彼の作品にはしばしば覆い隠された顔や姿が登場します。これは、母親が見つかった時に顔が覆われていたという記憶に由来すると言われています。
幼馴染のジョルジェット・ベルジェと結婚
マグリットの人生には、妻ジョルジェット・ベルジェの存在が欠かせません。ジョルジェットとは幼馴染であり、彼が24歳の時に結婚しました。
ジョルジェットはマグリットの女神ともいえるような存在であり、彼の作品にはしばしば彼女がモデルとして登場します。二人の強い絆は、彼の創作活動において明確な原動力だったとみられます。結婚生活自体が、マグリットの創造力を支える基盤となりました。
ジョルジェット当人の証言によると、彼女が登場した絵画として、たとえば、「ビルボケのあるジョルジェットの肖像」をはじめ、「横たわる裸婦」などが存在します。
ジョルジョ・デ・キリコ『愛の歌(キリコ)』との出会い
ルネ・マグリットの画風に大きな影響を与えたのは、イタリアの画家ジョルジョ・デ・キリコの作品『愛の歌』との出会いです。
『愛の歌』は、1920年代にマグリットがパリを訪れた際に見た作品です。この作品は、マグリットがシュルレアリスムに傾倒するきっかけとなりました。デ・キリコの作品に見られる謎めいた風景や、現実と夢の融合といった要素は、マグリットの芸術に深い影響を与えたとされています。
この絵画との出会いは、彼の芸術的方向性を変えさせるほどのものでした。デ・キリコの影響を受け、マグリットは現実の物体を新しい文脈で再配置し、観る者に新たな解釈を促す手法を確立したのです。
ルネ・マグリットの画風
ルネ・マグリットの画風は、シュルレアリスムの中でも特に独自性を持っています。
彼の作品は、現実と幻想を巧妙に融合させ、視覚的な驚きをもたらします。以下からは、彼の画風の特徴について詳しく見ていきましょう。
シュルレアリスム
シュルレアリスムは、1920年代に始まった芸術運動。
夢や潜在意識の世界を表現することを目的としています。マグリットはこの運動に参加し、日常的な物体を奇妙な文脈で描くことで、観る者に現実の再考を促しました。彼の作品には不条理なイメージや矛盾した場面が登場し、それが観る者にインパクトを与えます。
シュルレアリスムの中心にあるのは、現実世界と夢の世界の融合です。マグリットは、「大家族」や「自然の驚異」などで現実の物体や風景を取り上げ、それを奇妙で異世界にいるような文脈、価値観で配置し、観る側を混乱させ、現実とは、夢とは何なのかというような考察を促しました。
筆触を残さない古典的な描法
マグリットの絵画技法は、古典的な描法に基づいています。
彼は筆触を残さないように注意深く描き、まるで写真のような精緻な画面を作り上げました。この技法は、彼の作品に一層の現実感を与え、観る者を驚かせます。彼の作品は、細部まで丁寧に描かれていることが特徴。現実世界の物体や風景を精緻に再現しています。
この細部へのこだわりは、彼の作品に一層の現実感を与えたとされています。現実にしか見えないだけに、観る者に「これは本当に現実なのだろうか?」という問いを投げかけ続けるのです。
視覚的パラドックス
マグリットの作品には、視覚的なパラドックスが頻繁に登場します。
たとえば、同じ人物が複数の場所に同時に存在する場面や、物体が通常とは異なる形状や大きさで描かれる場面などです。こうしたパラドックスは、観る者の視覚的認識を揺さぶり、現実と幻想の境界を曖昧にします。
彼の作品「大家族」では、鳥の形をした空が描かれており、鳥の輪郭が背景と一体化しています。これは、視覚的なパラドックスを通じて、観る者に現実の認識を再考させる一例です。
「言葉とイメージ」の問題を追求
マグリットは、言葉とイメージの関係についても深く探求したとされています。
彼の作品「イメージの裏切り」では、パイプの絵に「これはパイプではない」という文言が添えられています。この作品は、言葉が示すものと、目の前のイメージが示すものの間にあるギャップを強調し、観る者にその意味を問いかけます。
「イメージの裏切り」に似た作品として、「テーブル、海、果物」が挙げられます。ヨーロッパの人々がこの絵を見た場合、一般的には左から「テーブル=木の葉」「海=バターの塊」「果物=ミルク壺」と解釈されがちです。この作品は、マグリットの言葉とイメージに関する問題を典型的に示しています。
この場合、言語も現実を正確に表しているわけではありません。「海」と聞けば、普通は青い広大な塩水の空間を思い浮かべるでしょう。しかし、マグリットは「海」の下にバターの塊を描いています。
ルネ・マグリットの代表作
ルネ・マグリットの代表作には、彼の独創的なアイデアと技術が凝縮されています。
以下からは、彼の最も有名な作品をいくつか紹介します。
人の子
「人の子」は、マグリットの代表作の一つで、彼の肖像画シリーズの中でも特に有名です。
この作品では、スーツを着た男性の顔がリンゴで隠されています。この奇妙なイメージは、日常の中に潜む不思議さを表現しています。「人の子」は、マグリットが自身の自画像として制作したもの。彼のアイデンティティや自己認識についての表現がなされていると捉えられます。
リンゴで顔を隠すという行為は、自己表現と自己隠蔽の間の緊張を象徴しており、観る者に対して「私たちは本当に自分自身を知っているのか?」という問いを投げかけている、と考えることもできます。
大家族
「大家族」は、青空と雲を背景に、鳥が描かれた作品です。鳥の体には、背景の空と雲がそのまま描かれており、まるで透明な存在のように見えます。この作品は、現実と幻想の境界を曖昧にするマグリットの特徴的な手法を明快に表しているといえるでしょう。
「大家族」は、現実の物体と背景が一体化することで、観る者が新たな視覚的経験を得られます。
鳥の形が空と融合することで、現実の物体が新たな意味を持つようになり、観る者に対して「物事の本質とは何か?」といった問いを投げかけているとも捉えられます。
イメージの裏切り
「イメージの裏切り」は、マグリットの代表作の中でも特に有名な作品です。パイプの絵に「これはパイプではない」という文言が添えられており、言葉と眼前のイメージとの関係について深く考察するきっかけとなります。
「イメージの裏切り」は、現実の「認識」に対する問いかけを象徴していると考えられます。
この作品は、言葉とイメージとの関係が必ずしも一致するものではないことを示唆しており、観る者に対して「言葉が示すものとイメージが示すものの間にあるギャップ」を強調。パイプの絵が実際にはパイプではないという事実は、観る者に「言葉が紡ぎ出すものの本質的な意味とはどのようなものか?」といった考え方を促すといえます。
ゴルコンダ
「ゴルコンダ」は、空から降る無数の男性が描かれた作品です。
男性たちは同じスーツと帽子を身に着けており、まるで複製されたように見えます。「普通の目立たない平均的な人間」を象徴しており、マグリット自身もこの帽子を着用することで自分を投影しています。タイトルは、1687年に滅ぼされたインドの都市「ゴルコンダ」に由来し、富で知られた幻の都市を意味します。このタイトルは詩人ルイ・スクテネアによって付けられたと言われています。
作品では、浮遊と落下という矛盾した要素が同時に描かれ、マグリットの憂鬱な感情が表現されています。しかし、背景には澄んだ青空とマグリットの実際の住環境が描かれており、彼の「目立ちたいとは思わない」喜びと「普通」という感情が反映されています。
また、絵を近くで見ると男性たちには個別の顔が描かれていますが、遠くから見ると特徴のない大衆のように見えます。マグリットはこの作品で、個人と集団の関係性を表現しようとしました。マグリットはこの作品について、たくさんの男たちが同時に現れると個性が消失し、同じ服装の一塊として見えると述べています。
恋人たち
「恋人たち」は、顔を覆った二人の人物がキスをしている作品です。顔が布で覆われているため、二人の表情は見えません。
この作品は、愛と秘密のテーマを探求するものであり、顔を覆った二人の姿は、愛の本質やコミュニケーションの限界について再考させるものです。伝統的な「恋人たち」の主題を用いながら、顔を隠すことで、幸福感よりも不安感を引き起こすようにしています。
色相について、背景の青が生命を象徴し、女性の赤い服が愛や情熱を表し、男性の黒いスーツが死を示唆しているという解釈も。布で覆われた顔は、愛の中にある神秘と未知の要素を象徴しており、観る者に人間の根本的な孤独を想起させるとも考えられています。
ルネ・マグリット作品を収蔵する美術館
ルネ・マグリットの作品は、世界中の美術館で収蔵されています。
日本でも彼の作品を鑑賞できる美術館がいくつかあるため、以下から見ていきましょう。
川村記念美術館(千葉)
「DIC川村記念美術館」は、20世紀美術を中心に多彩なコレクションを持ち、四季折々の自然環境の中で作品を楽しむことができます。
103展示室[シュルレアリスムとその展開]では、マグリットの作品を鑑賞可能。自然の変化と調和した建築が、訪れる人々に特別なひとときをもたらします。
レンブラントの肖像画から、印象派のヨーロッパ近代美術、20世紀後半のアメリカ美術まで、多様な作品を収蔵。敷地内には里山の風景が広がり、緩やかな起伏とともに動植物の活動が感じられます。
豊田市美術館(愛知)
愛知県の豊田市美術館でも、マグリットの作品を鑑賞することができます。現代美術のコレクションが充実しており、国内外の著名なアーティストの作品が展示されています。
豊田市美術館は、1980年代以降に開館した美術館の中では比較的新しい存在です。そのため、美術史全般を網羅するのではなく、現代美術に焦点を当てた展覧会を多く開催してきました。
当初は市民にとって馴染みの薄い美術館とされましたが、現在ではクリムトや岸田劉生といった近代美術の名作や工芸美術も収蔵しています。
ポーラ美術館(神奈川)
ポーラ美術館は、マグリットの作品を収蔵している美術館の一つです。2002年に神奈川県箱根町で開館し、「箱根の自然と美術の共生」をテーマにしています。
美術館には、ルネ・マグリットの「生命線」(1936年)、 「前兆」(1938年)、 「水滴」(1948年)など、著名な作品も収蔵されています。
建物は自然と調和し、地上8mに抑えた高さと地下に多くを配置することで、森の中に溶け込むデザインです。展示室では独自の照明を使用し、約10,000点のコレクションを美しく鑑賞できます。これには、ポーラ創業家の鈴木常司が40年以上かけて収集した西洋絵画や日本画、版画、東洋陶磁、ガラス工芸、化粧道具などが含まれています。美術館の「共生」という理念は、作品と自然、建築空間に息づいています。
まとめ
ルネ・マグリットは、現実と幻想の境界を曖昧にするシュルレアリスムの巨匠として、美術界に多大な影響を与えました。彼の独創的な作品は、観る者に新たな視点を与え続けています。是非、美術館を訪れて彼の作品を直接鑑賞してみてください。
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