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2024.05.15

【わかりやすく解説】象徴主義とは何か?その特徴と代表的な画家・作品をご紹介

【わかりやすく解説】象徴主義とは何か?その特徴と代表的な画家・作品をご紹介

象徴主義とは何か

象徴主義という言葉を聞いたことはありますか?象徴主義とは象徴派やサンボリスム(symbolisme)とも呼ばれており、19世紀後半から20世紀初頭にかけてフランスやベルギーを中心にヨーロッパ全土で起きた芸術運動のことを言います。絵画においては、人間の内面のような本来は目に見えないものを、目に見えるものに置き換えて描いたのが特徴です。

この記事では、象徴主義の概要や誕生の背景、代表的な画家と作品についてアートリエ編集部が解説します。近代美術に興味がある方や、詳しくなりたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

象徴主義誕生の背景

19世紀後半のフランス詩人たち。前列左にヴェルレーヌとランボー。アンリ・ファンタン=ラトゥール画(1872)

18世紀後半から起こった産業革命により、それまで手工業中心だった世の中が機械化され、世の中に安価で大量にモノが出回るようになりました。特に象徴主義が起こった19世紀後半のヨーロッパは、第2次産業革命によって電気や石油などのエネルギー変換が起こり、さらにモノの大量生産が進み、交通手段や通信、出版などが発展して急激に近代化が進んだ時代です。

物質主義や合理主義が蔓延した時代に、一部のアーティスト達は人間の精神性が軽んじられることに危機感を感じていました。そこで目に見えるモノではなく、人の内面を表現しはじめたのは自然な流れでしょう。

時を同じくしてイギリスでは「アーツ・アンド・クラフツ運動」が起こりました。手工芸を復活させることで、美術と工芸の融合を目指したのです。ひとつひとつ丁寧にモノを作ることで、見失われつつある人間性の回復をも計りました。機械化に反発して手工芸の復興を目指した点や人の内面を重視したことは象徴主義と同じです。

象徴主義という言葉は詩人のジャン・モレアスが、1886年にフランスのフィガロ紙に「象徴主義宣言」を発表したことに由来します。実際にはそれ以前から象徴主義の流れはあり、1857年に発表されたシャルル・ボードレールの詩集「悪の華」が象徴主義の始まりとされています。その後、ステファヌ・マラルメやポール・マリー・ヴェルレーヌ、アルチュール・ランボーら詩人が受け継いでいきます。象徴主義は文学からはじまり、演劇や音楽、絵画へと広がっていったのです。

象徴主義の代表的な芸術家たち

ここからは、象徴主義の代表的な4名の画家を取り上げます。

オディロン・ルドン(1840-1916)

オディロン・ルドン

ルドンは目玉や花のモチーフを使い、幻想的な世界を描くことで知られています。生後すぐに叔父のもとに預けられ、地方の寂しい土地で孤独な幼少期を過ごしました。このことがルドンの夢想癖を養い、後の独自の作風となったと言われています。

30歳から20年近くは、版画や木炭で神話や妖怪などを題材に不気味な絵を黒一色で描いていました。この時期は「黒の時代」と呼ばれています。40歳で妻のカミーユと結婚した頃からパステル画や油彩での作品作りを始め、49歳で次男のアリが生まれて以降は色彩に溢れる絵を描いています。

ちなみに「黒の時代」の目玉の絵を見て、漫画家・水木しげる氏が「ゲゲゲの鬼太郎」の目玉おやじを発想するのに役立ったそうです。

代表作には「気球」「キュクロプス」「グラン・ブーケ」などがあります。

ギュスターヴ・モロー(1826 – 1898)

ギュスターヴ・モロー

神話や聖書などを題材にした神秘的な画風で知られ、サロメやスフィンクスなどの形をとって多くのファム・ファタール(魔性の女)を描いています。幼い頃から絵の才能があり、早くからデッサンを始めたモローは、父の蔵書のギリシア神話やローマ神話を熱心に読んでいたといいます。31歳でイタリアに私費留学した際には、ルネサンス期の絵画を熱心に学びました。

モローの作品は、文学にも大きな影響を与えています。小説家のジョリス・カルル・ユイスマンスが、代表作「さかしま」のなかでを取り上げたことでモローの作品はブームとなりました。詩人のオスカー・ワイルドは、モローの作品に影響されて戯曲「サロメ」を書いて世界中で人気となったほどです。

モローの自宅兼アトリエには、多数の油彩・水彩・デッサンが残されており、遺言書通りに「ギュスターヴ・モロー美術館」として公開されています。

代表作には「オイディプスとスフィンクス」「出現」などがあります。

グスタフ・クリムト(1862‐1918)

グスタフ・クリムト

官能的な女性像と金箔をふんだんに使った装飾性のある独自の画風で知られています。クリムトは金細工師の父の元に生まれ、14歳で職人を養成する工芸美術学校に入学しましたが、非常に絵が上手だったため画家を目指します。卒業前に弟のエルンスト・クリムトと同級生のフランツ・マッチュと3人で室内装飾を手掛ける「キュンストラーカンパニー」を結成しました。この頃のクリムトは、アカデミックな画風で壁画や天井画などを描いていました。当時の絵は現在でもウィーンのブルク劇場の階段室の天井画や、美術史美術館の階段室の壁画の一部でも見られます。

クリムトが35歳の1897年に、ウィーン分離派を結成し独自の様式を確立していきます。アカデミーからの独立の動きはヨーロッパ各地で起こりましたが、ウィーン分離派は美術と工芸の融合への意識が高く、イギリスのアーツ・アンド・クラフト運動に近い活動でした。 代表作には「接吻」「水蛇」「アデーレ・ブロッホ・バウアーの肖像 I」などがあります。

ジョン・エヴァレット・ミレー(1829-1896)

ジョン・エヴァレット・ミレー

象徴主義の先駆けとも言われるラファエル前派の画家で、精緻な描写と鮮やかな色彩が特徴的です。幼いころから神童と呼ばれるほど絵の才能があり、史上最年少の11歳でイギリスのロイヤル・アカデミー付属美術学校に入学しました。

当時のロイヤル・アカデミーの方針に疑問を感じていたミレーは、19歳で同級生のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティやウィリアム・ホルマン・ハントらとラファエル前派を結成します。自然をありのままに描くゴシック期の美術に倣いながら、新しい様式の確立を目指したのです。

古典を題材とした反アカデミック傾向や、象徴的な手法などを用いることから、ラファエル前派は象徴主義の先駆けとみなされています。しかし、ミレーは後にロイヤル・アカデミーの会員になり、死の直前の1896年には、ロイヤル・アカデミーの会長に選ばれました。

代表作には「オフィーリア」「黒きブランズウィック騎兵隊員」「初めての説教」などがあります。

象徴主義の代表的な作品

キュクロプス

キュクロプス

《キュクロプス》ルドンの代表作のひとつで、1898年から1900年頃、もしくは1914年ごろに製作されました。ギリシャ神話に登場する一つ目の巨人・キュクロプス族のポリュフェモスが、海の妖精ガラディアを見守る様子が描かれています。

一般的にポリュフェモスは、乱暴な性質で人を食べるとされています。しかし、この絵のポリュペモスは、穏やかな表情で恋するガラディアを優しく見つめており、見ているこちらが微笑ましく感じるほどです。

パステル調の色彩や柔らかいタッチは、幻想的な雰囲気を醸し出しています。一説には、ポリュペモスがルドン自身、ガラディアが妻のカミーユとも言われており、2人の家庭生活の順調さがうかがえます。

ガラテイア

ガラテイア

モローの代表作《ガラテイア》は、1880年に製作され、1889年のパリ万博に出品されました。上記のルドンの作品と同じく、海の妖精ガラディアと、それを見つめる巨人・ポリュペモスが描かれています。ルドンの絵とは反対に海中の岩にゆったり腰かけるガラディアがメインとなっています。ポリュペモスはこの絵では三つ目の巨人で、叶わぬ恋に苦しむような表情です。

モローはファム・ファタールを多く描いていますが、この絵のガラディアも髪をかき上げながらポリュペモスを誘っているようにも見えます。ガラディアの周辺の海藻やサンゴなどは、モローが自然史博物館などでスケッチした実在の海洋植物を緻密に表現したものです。海の底でガラディアの白いからだが浮き上がるような、夢幻的な雰囲気を持っています。

接吻

接吻

《接吻》はクリムトの作品の中でも世界中で人気があります。オーストリア政府に買い上げられたクリムトの代表作のひとつで、1907年から1908年にかけて製作されました。

花が咲き乱れるなかで男女が親密な雰囲気で抱き合っている様子は、愛や官能性を象徴しています。同時に切り立った崖の上に立っているため、死が身近にあることも感じられる作品です。2人のモデルはクリムト自身と愛人のエミーレ・フレーゲと言われていますが、記録がないためハッキリしたことは分かりません。

長方形ではなく、正方形のキャンバスに描くことで、中央の人物が見る側にはっきりと意識されます。また、油彩ですが、金箔やプラチナ箔が使用されており、クリムトが大事にした工芸的な美しさも感じられます。愛と官能性、装飾性と象徴性が見事に調和した作品です。

オフィーリア

ラファエル前派のジョン・エヴァレット・ミレーの代表作です。1851年から1852年にかけて製作されました。ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「ハムレット」のヒロイン、オフィーリアが、川で溺れる様子が描かれています。

古典文学の物語性のある題材を、明るく鮮やかな色彩で繊細に描いたラファエル前派らしい作品です。ハムレットの舞台はデンマークですが、ミレーはロンドン近郊のサリー州にあるホッグスミル川の植物を実際に観察して描いています。オフィーリアが持っている赤い花はケシの花で、「死」を象徴しています。

この絵はミレーが反発していたアカデミーにも大変好評で、後にアカデミー会員になるきっかけになりました。また、夏目漱石の「草枕」に出てくることから、日本でもおなじみの作品ではないでしょうか。

叫び

叫び

ノルウェーの画家、エドヴァルド・ムンクが1893年に製作した作品です。日本でも様々なメディアに取り上げられたり、グッズが販売されていたりするため有名で、すぐにこの絵を頭に浮かべることができる方も多いでしょう。1994年と2004年の2回、盗難にあったことでも知られています。

大地の叫びを聞いた中央の人物(ムンク自身)が、極度の不安や恐怖を感じている様子が鑑賞者にストレートに伝わってくる作品です。赤く染まったゆがんだ空と、青い水の流れのいびつな表現が、より不安感を駆り立てています。 人の内面の感情をダイレクトに描いたこの作品は、後の表現主義にも影響を与えました。

象徴主義の主なテーマと特徴

絵画における象徴主義のテーマは、喜びや悲しみ、愛や死など人間の感情や形のない抽象的な観念です。目に見えないものを、神話や宗教、夢などのモチーフの形を借りて静謐で落ち着いた雰囲気で表現しています。

何かを象徴して表現する手法は昔からありましたが、象徴主義で描かれる象徴は「赤いバラ=愛」や「鳩=平和」のように必ずしも伝統的な意味を持つものでなくても構いません。画家個人が主観的に感じたままを描くことで、絵を見た人それぞれが想像する余地を残しています。

象徴主義はベルギー・ブリュッセルの「二十人組」やオーストリアの「ウィーン分離派」、ドイツでは「ミュンヘン分離派」などが結成され、ヨーロッパ全体やロシアにも広がりました。また、ヨーロッパほどではありませんが、アメリカにも広がり、アルバート・ピンカム・ライダーやフレデリック・ステュアート・チャーチなどの象徴主義の画家が現れています。

象徴主義は、見たままを写実的に描く印象派に疑問を持った画家たちの運動でもあります。見えないものを描くからこそ絵画であり、見えるものをそのまま表すなら写真で充分だと感じたのかもしれません。

また、人の感情や主観的に描くという点ではロマン主義とも重なります。しかし、英雄や現実の事件を描いたロマン主義に比べて、古典を題材にしたことや、より人の内面を重視した点では異なります。

象徴主義はその後の時代のアートに影響を与えた

象徴主義は19世紀末の世紀末芸術にも影響を与えました。人の内面の表現を重視した画家の主観的なイメージや幻想的な雰囲気は、世紀末芸術の持つ退廃的なテーマと相性が良かったのです。また、大量生産や機械化を疑問視し、美術と工芸を結びつける姿勢や装飾的な側面は、アール・ヌーヴォーの発展にも大きく影響しました。

内面性や精神性、夢や幻想などの表現方法は、後の抽象的表現やシュルレアリスムなど、現代美術にも受け継がれています。

モローの教え子には後のフォービズムの中心的な画家アンリ・マティスとアルベール・マルケ、ジョルジュ・ルオーらがおり、ドイツの象徴主義画家、フランツ・フォン・シュトゥックの教え子には、独自のスタイルを築いたパウル・クレーや、抽象画を描いたワシリー・カンディンスキーなどがいます。 象徴主義は、世紀末芸術やアール・ヌーヴォーだけでなく、現代美術にまで続く新たな表現の可能性を切り開いたのです。

現代の象徴主義の評価

象徴主義の絵画は現代ではどのような評価を受けているのでしょうか。

ここでは絵画の取引例3つと、日本の美術館の動きを見ていきましょう。

クリムトの黄金時代の傑作「アデーレ・ブロッホ・バウアーの肖像 I」は、個人間取引で2006年に当時の絵画史上最高額の約155億円で売却されました。現在はニューヨークのノイエ・ギャラリーに所蔵されています。

ムンクの「叫び」は、2012年のサザビーズのオークションで、当時オークション史上では最高額の約96億円で落札されました。ちなみにこの「叫び」は、オスロ博物館にある「叫び」とは同名の別作品のひとつです。

2018年のクリスティーズのオークションでは、ルドンの「花」の絵セットが、日本円で約4億4600万円で落札されました。これはルドンの最高落札額を更新する出来事となりました。

このように、美術市場において象徴主義の作品は高値で取引されており、その芸術適価値が認められています。 また、岐阜県立美術館はルドン作品の収集に積極的で、2024年現在で250点を超えています。公立の美術館が1人の画家の作品をこれほど収集しているのは、象徴主義の絵画を高く評価している結果だと言えるでしょう。

象徴主義の作品が楽しめる場所

絵画の前に立つ黒いコートを着た女性

ここからは、世界や日本で象徴の作品を実際に見に行ける場所を紹介していきます。お近くの方はもちろん、旅行の際にはぜひ立ち寄ってみてください。

世界の象徴主義の作品が充実している美術館

オルセー美術館

印象派の作品を多く所蔵しているイメージが強いオルセー美術館ですが、象徴主義の作品も充実しています。モロー「出現」「ガラティア」や、ルドン「眼を閉じて」「ロベール・ド・ドムシー男爵夫人」などを収蔵。

ギュスターヴ・モロー美術館

モローの自宅兼アトリエを、モロー自ら生前に準備していた個人美術館です。初代館長はモローの教え子、ルオーが就任しました。

ベルヴェデーレ美術館

グスタフ・クリムトの作品を24点所蔵する美術館です。「接吻」や「ユーディット」など有名な作品も含まれています。

ベルギー王立美術館

フェルナン・クノップフの「スフィンクスノ愛撫」「ヴァン・デル・ヘクト嬢の肖像」などベルギーの象徴主義の作品を収蔵しています。

ムンク美術館

2021年10月22日にオープンした新しい美術館です。2万6千点を超えるムンクの作品と、全体で4万2千点以上の収蔵品があります。

日本で象徴主義の作品を観賞できる美術館(作家別)

オディロン・ルドン 

《岐阜県美術館》蜘蛛・眼をとじて・気球・オルフェウスの死・薔薇色の岩など250点以上

《東京国立近代美術館》肖像XXVII

《国立西洋美術館》ヨハネ黙示録・聖アントワーヌの誘惑など

《三菱一号館美術館》グラン・ブーケ

《神奈川県立近代美術館》ゴヤ頌・聖アントワーヌの誘惑・悪の華など

《ポーラ美術館》日本風の花瓶

《上原美術館》ひまわりのある花束・ダンテとベアトリーチェ

《メナード美術館》夢想

《群馬県立近代美術館》ペガサスにのるミューズ

《京都国立近代美術館》若き日の仏陀

《ひろしま美術館》ペガサス(岩上の馬)

《鹿児島市立美術館》オフィーリア

ギュスターヴ・モロー

《国立西洋美術館》ピエタ・牢獄のサロメ・聖女チェチリアなど

《群馬県立近代美術館》救済される聖セバスティアヌス

《横浜美術館》岩の上の女神

《メナード美術館》サロメの舞踏

《岐阜県立美術館》ピエタ・聖セバスティアヌスと天使

《大原美術館》雅歌

グスタフ・クリムト

《東京富士美術館》左を向いた少女

《愛知県美術館》人生は戦いなり(黄金の騎士)

《豊田市美術館》オイゲニア・プリマフェージの肖像

ジョン・エヴァレット・ミレー

《国立西洋美術館》あひるの子・オオカミの巣穴

《新潟県立近代美術館》アリス・グレイの肖像

フェルナン・クノップフ

《国立西洋美術館》仮面

《メナード美術館》夫人像

ムンク

《群馬県立近代美術館》オースゴールストランの夏

《ひろしま美術館》女の肖像

人の内面を描いた象徴主義は

Pomegranates, Albert Joseph Moore

象徴主義は、本来目に見えない感情や概念を具体的な形に置き換えて表現する芸術運動であり、19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んに行われました。この運動は、その後の近代美術に大きな影響を与え、多くの芸術家が象徴主義の手法を取り入れました。

象徴主義の絵画は、深い感情や哲学的なテーマを表現し、鑑賞者の想像力を豊かに刺激します。これらの作品を通じて、芸術の新たな可能性を探ることができます。

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