ゲルハルト・リヒターは、現代美術の巨匠として知られています。一度は名前を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、リヒターの経歴や作品の特徴についてご紹介します。リヒターの多彩な世界観を、ぜひお楽しみください。
ゲルハルト・リヒターとは?
ゲルハルト・リヒターは、現代美術の分野で著名な画家で、ドイツ生まれの巨匠です。彼は1960年代半ばから現在まで、60年以上にわたり画家として成功し、世界的に高い評価を受けています。
リヒターの作品は多岐にわたります。写真をもとに写実的に描いた「フォト・ペインティング」やガラスを取り入れた立体作品、写真に絵の具を重ねる「オーバー・ペインテッド・フォト」、そしてスキージー(窓掃除等に使われるゴム製ワイパー)を使用した抽象画など様々なテクニックを駆使して制作されています。
ゲルハルト・リヒターが残した経歴
ここでは、ゲルハルト・リヒターの経歴についてご紹介します。その輝かしい軌跡を知れば、よりリヒターの作品が楽しめるでしょう。
ドレスデン芸術大学にて絵画を学ぶ
リヒターは1951年に、ドレスデン芸術アカデミーの壁画学科に入学し、画家ハインツ・ローマーのもとで学びました。1956年にアカデミーを卒業した後、リヒターは夜間の一般向け絵画教室で教えながら、政府の依頼を受けて壁画を制作する生活を送ります。
当時、東ドイツの共産主義政権は芸術をプロパガンダに利用し、西側諸国の展覧会を禁止していました。抽象表現が規制されていたため、リヒターも自由に制作活動を行うことが難しかったのです。
デュッセルドルフ大学に入学
1961年、ベルリンの壁完成直前にデュッセルドルフへ移住し、デュッセルドルフ大学の美術アカデミーに入学しました。ここで、アンフォルメル派を代表するカール・オットー・ゲッツの指導を受け、若き才能たちと共に学びます。リヒターはこの時期、東ドイツ時代に制作した作品を破棄し、より前衛的なアプローチを追求しました。
彼の芸術表現は「フォト・ペインティング」と呼ばれ、写実的な要素とぼかしを組み合わせた独自のスタイルを築いていきます。
デュッセルドルフ芸術大学の教授に就任
1971年、リヒターはデュッセルドルフ芸術大学の教授に就任し、その後15年以上にわたり教鞭を執りました。1960年代半ばから、リヒターは抽象絵画のシリーズ制作にも取り組みました。灰色一色で無を表現した「グレイ・ペインティング」や、色彩を色見本帖のように並べた「カラーチャート」などがその代表例です。
1976年に「アブストラクト・ペインティング」シリーズの制作をスタートし、それ以降40年以上にわたり、このスタイルを継続して制作しました。
ドクメンタやヴェネツィア・ビエンナーレなどの国際展に出展
リヒターは毎年個展をドイツを中心に開催し、グループ展へも精力的に参加しました。さらに、世界各国の国際展にも積極的に出品し、特に注目されたのはイタリアで2年に1度開催される「ヴェネツィア・ビエンナーレ」とドイツで5年に1度開催される「ドクメンタ」への出展です。
ヴェネツィア・ビエンナーレでは1972年と1997年に2回、そしてドクメンタにはこれまでに計6回選ばれました。特に1997年の「ドクメンタⅩ」では、写真や新聞に掲載されている写真を切り抜き組み合わせた作品「Atlas」を展示し、国際的な芸術シーンで大きな注目を浴びています。
第47回ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞を受賞
1997年に開催された第47回ヴェネチア・ビエンナーレで、「Abstraktes Bild」シリーズの28点の作品が展示されました。その優れた芸術性により、最優秀賞である金獅子賞を受賞しました。この賞はその年最も卓越した国際的な芸術家に贈られる名誉ある賞です。
さらに、リヒターは同じ年に高松宮殿下記念世界文化賞も受賞しています。彼の作品が数々の賞に輝いたことは、彼の芸術的キャリアの重要な瞬間だといえるでしょう。
ゲルハルト・リヒターの作品の特徴
リヒターは初期から「フォト・ペインティング」などで知られ、新聞や雑誌の写真を大きくカンバスに模写しながら、画面全体をぼかす手法を使用しました。
また、彼の作品には多くのシリーズが存在します。「カラーチャート」のように多彩な色彩を並べた作品や、「グレイ・ペインティング」のようにカンバス全体を灰色で覆った作品、さらに「アブストラクト・ペインティング」のように多層的な絵の具の重ねを用いたものなどが含まれています。
ゲルハルト・リヒターの代表作
ここでは、ゲルハルト・リヒターの代表作をいくつか紹介します。リヒターの多彩な世界をぜひお楽しみください。
1025 Farben (357-3)
「1025 Farben (357-3)」は、「カラーチャート」シリーズの1つです。このシリーズは1966年から制作が始まり、2008年の「Quattro Colori (22. Juni 08)」まで、断続的に制作されました。
「カラーチャート」シリーズは、色見本帳をもとにしており、色の配置とスケール以外は作家の個人的な意図や感情が反映されない機械的な抽象絵画です。
Betty
「Betty」は、ゲルハルト・リヒターの「フォト・ペインティング」シリーズに属する代表作の1つです。この作品は、リヒターの愛娘バベッテ(愛称ベティ)を1977年に撮影した写真をもとに制作されました。
「Betty」は、バベッテの輝くブロンドの髪や洋服の質感を精巧に描写しており、子どもの姿が鮮やかでリアルに表現されています。顔が後ろを向いているため、彼女がどんな表情をしているのか、何を見ているのかは定かではありませんが、リヒターの作品である「グレイ・ペインティング」を見つめているのではないかという一説もあります。
リヒターが写実的な描写と同時に、観る者に解釈と想像の余地を与える手法を巧みに組み合わせた例として称賛されています。
Nov. 1999
「Nov. 1999」は、「オーバー・ペインテッド・フォト」シリーズの印象的な作品です。このシリーズでは、写真に絵具を重ねて新たな表現を生み出しています。
「Nov. 1999」は、その中でも特に注目される作品の1つで、複数枚制作されました。写真に写る緑の地面の上に、鮮やかな赤の絵具が炎のように重ねて塗られています。
ものを具体的に再現するはずの写真を抽象的な絵画へと変換し、自らの作品を支えるテーマの一つである”写真と絵画の境界の探求”を見事に表しています。
ケルン大聖堂のステンドグラス
世界最大のゴシック建築、ケルン大聖堂の南翼廊にあるステンドグラスです。2003年、ケルン大聖堂はステンドグラスの一新を決定し、多くの芸術家の提案が審査されました。
その中で、リヒターのデザインしたステンドグラスが採用されました。作品のサイズは106㎡におよび、72の異なる色で構成されています。
正方形のステンドグラスピース(9.6cm×9.6cm)11,263枚がモザイク風に配置されており、繊細で多彩な色彩が特徴です。
ゲルハルト・リヒターの作品はどこで見られる?
ゲルハルト・リヒターの作品が見られる国内の美術館の一例です。
美術館 | ベネッセハウス ミュージアム | 高知県立美術館 |
住所 | 香川県香川郡直島町琴弾地 | 高知県高知市高須353-2 |
営業時間 | 8:00~21:00(最終入館20:00) | 9:00~17:00 |
休館日 | 年中無休 | 年末年始 |
公式サイト | https://benesse-artsite.jp/art/benessehouse-museum.html | https://moak.jp/ |
特徴 | 「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルが一体となった施設として1992年に開館。 | 国内外の約440名の作家による芸術作品を41,000点以上収蔵している美術館 |
まとめ
ゲルハルト・リヒターは、現代美術界で有名な画家の1人です。第47回ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞を受賞するなど、輝かしい経歴を持っています。写真をカンバスに描き写し、画面全体をぼかす手法で作られる「フォト・ペインティング」をはじめ、多彩なシリーズを世に出してきました。
リヒターの作品は、国内の美術館でも鑑賞可能です。リヒターの多種多様な技法で描かれた作品を、ぜひ楽しんでください。