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2024.07.22

草間彌生とは?前衛の女王の来歴や作風、代表作について解説します!

草間彌生とは?前衛の女王の来歴や作風、代表作について解説します!

草間彌生とは

日本の現代アート界の中心人物であり、世界的にも著名な芸術家である草間彌生は、2024年現在95歳にして精力的に制作活動を続けており、その作品はオークションでたびたび高額落札されるなど、国内外で非常に高い人気を誇っています。

無限に増殖していくような水玉模様や網目模様、かぼちゃなどを主要なモチーフを強烈な色彩で描くことで、独自の幻視的な世界を築いています。国内には野外彫刻やグッズなども数多く存在するため、誰もがその作品を一度は目にしたことがあるでしょう。

本記事では彼女の芸術家としての歩みから作品の特徴、代表作に至るまでをアートリエ編集部が詳しく解説します。

来歴

1929年3月22日、長野県松本市で種苗業を営む裕福な家庭に生まれた草間彌生は幼いころから絵を描くことが好きで、よく近所の花畑でスケッチをしていました。

幼少期から統合失調症を患っており、視界が網目や水玉模様で埋め尽くされたり、犬や花が人間の言葉で話しかけてくるなどの幻覚・幻聴に悩まされていました。繰り返し襲ってくるそれらの恐怖から逃れるために、10歳ごろからすでに水玉と網目模様をモチーフにした絵を描いていました。

1945年、16歳の時に「第一回全信州美術展覧会」に入選するなど才能を発揮し始め、高校卒業後は京都市立美術工芸学校に入学して日本画を学びました。当時の日本画壇が彼女の芸術を理解しないことに失望し、家族の反対を押し切って27歳で渡米します。

アメリカを代表する女性画家であるジョージア・オキーフへ手紙を送り、その返事を頼りに渡米を決意した草間に対し、オキーフは惜しみなく彼女を援助しました。

前衛の女王

シアトルにてアメリカ初の個展を開催した後、1958年にニューヨークへ移り、翌年にマンハッタンのブラタ・ギャラリーで個展を行い、「無限の網」などの大型絵画を5点発表し話題を呼びます。網の目を描いた作品は「ネット・ペインティング」と呼ばれ、ドナルド・ジャッドをはじめとする当時の前衛芸術家たちから大きな注目を集め、草間はニューヨークでの活動の基盤を手に入れました。

1960年代後半からは、男根状のオブジェを既製品に貼り付けた立体作品などを制作したほか、全裸の男女に水玉を描いたり、反戦運動やセックスをテーマとした「ハプニング」と呼ばれる過激なパフォーマンスを行なっていきます。1966年にはヴェネツィア・ビエンナーレにゲリラ参加し、1968年には自作自演の映画『草間の自己消滅』が数々の映画祭で受賞するなど、当時のアートシーンでたびたび注目を集め、「前衛の女王」とも呼ばれるようになります。

日本での活動と評価

ニューヨークでは高く評価された草間でしたが、日本ではあまり理解されませんでした。草間は最愛のパートナーを亡くしたことをきっかけに1973年に日本へ帰国し、精神病院に入退院を繰り返しながら制作を続けました。絵画や立体だけでなく小説や詩集なども精力的に発表し続け、1990年代に入ってようやく日本でも評価されるようになっていきます。1993年のヴェネツィア・ビエンナーレの日本代表に選出され、日本館にて個展が開かれたことを機に世界的に草間を再評価する動きが高まりました。

2009年より最大の絵画シリーズ「わが永遠の魂」の制作をスタートさせ、その数は12年間で800点以上にのぼっています。またこの頃からauの端末プロデュースやルイ・ヴィトンとの共同コレクション発表など、商業分野での活動も盛んに行い、2016年に女性画家としては4人目となる文化勲章を受賞します。その翌年には東京に草間彌生美術館をオープンさせ、95歳となった2024年現在でも盛んに制作活動を行なっています。

草間彌生作品の特徴やモチーフ

草間彌生

鮮やかな色彩

草間彌生作品の鮮やかな色彩は、見る者に強烈なインパクトを与えます。彼女がメインモチーフとしている水玉模様と網目の模様の多くは目の覚めるような強烈な色彩で描かれており、エネルギッシュな生命力を感じさせます。また、草間彌生自身も鮮やかな色のボブヘアーをトレードマークとしており、そのアイコニックな姿は世界中で親しまれています。

水玉

幼少期から患う統合失調症によって、草間は水玉や網目模様が視界を埋め尽くす幻覚に悩まされてきました。その幻覚を絵によって記録することで恐怖心に立ち向かってきたという草間にとって、水玉模様は生涯を通して描き続けている重要なモチーフです。

かぼちゃ

草間は自伝『無限の網』の中で、かぼちゃに魅せられたのは小学生の頃に祖父の採取場に遊びに行ったときのことだと語っています。太っ腹の飾らない造形的な魅力と、精神的力強さに興味を惹かれ、高校生の時に地方の県展でかぼちゃを描いた作品を出品し賞を取ったと言います。アメリカ時代はかぼちゃを描きませんでしたが、帰国後再びモチーフとして取り上げ、現在ではかぼちゃは草間のアイコンとして広く親しまれています。

網目

水玉と同じく、幻覚や幻聴の苦しみから精神の安定を得るために描いた反復模様の一つが網目です。草間は「無限の網」シリーズでアメリカのアートシーンから認められたことから、網目は草間にとって最も重要なモチーフの一つと言えるでしょう。草間はその作品において一つの模様を強迫的に反復して描き続けることで、無限や永遠の世界を表現しています。

繰り返しとパターン

草間作品の大きな特徴の一つとして、一つの要素の繰り返しとパターン化が挙げられます。水玉、網目、男根状のモチーフといった要素を基本として、それらを強迫観念にかられたように繰り返していく手法により、その幻視的な世界が作られています。インスタレーションにおいて鏡を利用したのも、モチーフが無限に繰り返される世界を表現できる媒体として適切だったからでした。

彫刻とインスタレーション

草間は絵画作品だけでなく彫刻やインスタレーション作品も多数手掛けています。1994年に福岡のアートプロジェクトにて、福岡市中央区天神の銀行前に巨大な黄色いかぼちゃのオブジェを出現させましたが、これが草間が初めて手掛けた野外彫刻作品でした。本作を皮切りに草花や帽子などをモチーフとして色鮮やかな立体作品を数々手がけ、世界中に展開されています。

また「無限の鏡の間」をはじめとした鏡を利用したインスタレーションも、草間が世界的アーティストとして著名になるきっかけとなりました。

自伝的要素

草間の作品には彼女の自伝的な側面と切っても切り離せない要素があります。

水玉や網目を描いた作品は彼女の幻覚に基づいており、それらが周りの空間に広がり自分の存在をも消してしまうという「自己消滅」のイメージの具現化であると言えます。また厳しい家庭環境の中で育った草間はセックスは汚いものであると教えられたことから、男根への恐怖や性への嫌悪感を抱いていました。男根の形を模したソフトスカルプチュアのシリーズは、性へのネガティブな強迫観念をエネルギーとして制作されています。

草間彌生の代表作品

無限の鏡の間

無限の鏡の間

引用:The Smithsonian Institution

草間は1965年11月にニューヨークのマディソン街にあるカステラーヌ・ギャラリーで開催した個展において、初めて鏡を用いたインスタレーション作品を発表しました。「Infinity Mirror Room – Phalli’s Field (Floor Show)」は、壁一面に鏡を並べた空間に男根をイメージした形の水玉模様のぬいぐるみを敷き詰めた作品で、合わせ鏡の効果によってぬいぐるみが無限に増殖していくような空間になっています。草間はそれ以降も鏡像の効果を利用した「ミラー・ルーム」と呼ばれるインスタレーションシリーズを発表していき、現在では世界各所に作品が点在しており、草間の代表作の一つとして知られています。

当初、草間は部屋全体を男根状のモチーフで埋め尽くした幻覚的な世界を制作しようと考えていましたが、精神的・肉体的負荷を考慮して断念し、代わりに鏡を部屋に敷き詰めるアイデアを思いついたことでミラー・ルームのシリーズが生まれました。彼女自身、鏡の反射によって自身の物理的限界を超える世界観を創造することができたと述べています。

無限の網

無限の網

引用:MOMA

草間は水玉と同じく網目の模様も自身の代表的なモチーフとして数々の作品を制作しています。

「無限の網(インフィニティネット)」のシリーズは、画面一面に網目の模様が広がっている作品です。自身を苦しめる幻覚の恐怖から逃れるように描き始めた網目は画面の中に凝縮されているようでありながら、画面の外へ無限に広がっていくような感覚ももたらします。

ナルシスの庭

ナルシスの庭

引用:The NewYork Times Style Magazine Japan

「ナルシスの庭」は1966年のヴェネツィア・ビエンナーレで公開されたインスタレーション作品です。1500個の鏡面仕上げのミラーボールを芝生に敷き詰めた作品で、草間は「あなたのナルシズムを販売します」と描かれた看板を持って会場にゲリラ的に現れ、通行人に1個2ドルで販売しました。

販売行為は当局の介入により中止されましたが、作品は大きな話題となりメディアでも広く取り上げられました。周囲の景色や通行人の姿を映し出す大量のミラーボールは、「無限の鏡の間」にも通じる増殖性と無限の広がりを感じさせます。

大いなる巨大な南瓜

大いなる巨大な南瓜

草間は若い頃からかぼちゃの絵を描いていましたが、水玉模様と組み合わせるようになったのは、ニューヨークから帰国してからのことでした。

故郷での記憶やイメージが帰国後に新たに浮かび上がり、恐怖や葛藤を具現化した水玉と生まれ育った環境で身近にあった植物が結びつき、この水玉模様のかぼちゃというモチーフが生まれたと言います。黄色いかぼちゃの彫刻は香川県の直島をはじめとして、日本各地に存在していますが、松本市美術館にある「大いなる巨大な南瓜」はその中でも最大サイズの作品です。

草間彌生の作品を鑑賞できる場所

松本市美術館

引用:Wikimedia commons

草間彌生美術館(東京)

2017年10月に新宿に開館した草間彌生美術館では、年に2回開催される展覧会で草間作品のコレクションが紹介されています。草間が作品を通して訴えてきた世界平和と人間愛というメッセージを世界に伝えるべく運営されている同館では、ワークショップや講演会などもたびたび開催されているため、草間作品の魅力をより深く知ることができます。

松本市美術館(長野)

草間の出身地である長野県松本市の松本市美術館には、草間の作品が多数展示されています。特に美術館の正面には野外彫刻の「幻の華」が設置されています。高さ10メートル、幅18メートルに及ぶ巨大な本作は、水玉模様があしらわれたカラフルなチューリップが花ひらいた作品で、草間の野外彫刻の中では最大サイズのものとなっています。

ベネッセ・アート・サイト・直島(香川)

香川県の直島にあるベネッセ・アート・サイト直島には、高さ2メートル、幅2.5メートルの巨大なかぼちゃの野外彫刻が設置されています。海岸に設置された本作は2021年に台風の影響で波にさらわれるというトラブルに見舞われながらも、修復され2024年3月に展示が再開されました。

十和田市現代美術館

青森県の十和田市現代美術館のアート広場には、草間の大規模な野外インスタレーション作品「愛はとこしえ十和田でうたう」が設置されています。「十和田のハナコちゃん」と名付けられた少女を中心として、水玉模様が施された犬やかぼちゃ、きのこなどの彫刻が点在しています。最も大きなかぼちゃは中に人が入ることができるようになっており、暗闇の中で7色の光が点滅している仕様になっています。

まとめ

草間彌生の人生と作品の特徴について詳しく紹介しました。草間の鮮烈な色彩に彩られたアイコニックな作品の数々は今や世界的に愛されており、現代のアートシーンを支えています。そんな草間の作品は日本各地で見ることができるので、ぜひ気軽に足を運んでみてください。

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