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2024.07.17

フレスコ画とは?歴史や技法、代表的な画家をわかりやすく解説!

フレスコ画とは?歴史や技法、代表的な画家をわかりやすく解説!

フレスコ画とは?

「フレスコ画」という名前には聞き覚えがあるけど、どんな絵を指しているのかは知らないという人が多いかもしれません。実は、ルネサンス期の名画として伝わる教会や宮殿の壁画の多くが「フレスコ画」の技法で描かれたもの。あの有名なミケランジェロの「最後の審判」やラファエロの「アテネの学堂」などもフレスコ画なのです。

フレスコ画とはどんな技法なのか、油絵など他の技法とどう違うのかをアートリエ編集部がわかりやすく解説します。   

「フレスコ」ってどんな意味?

フレスコとは、イタリア語で「フレッシュな」という意味。乾いていない湿った漆喰の上に水性顔料で描く手法がフレスコ画。漆喰が濡れている「フレッシュな」あいだに絵を仕上げるところからそう呼ばれます。長所は、絵具が漆喰と化学的に結びついて耐久性の高い絵画に仕上ること。適切な環境であれば何百年、千年以上もの間、色彩が保持されるといいます。また壁に絵具が一体化し表面にしっかりと定着するため、鮮やかな発色を得られるのです。

フレスコ画とテンペラ画の違いは?

フレスコ画と同時期に流行していた画法に「テンペラ画」があります。フレスコ画は漆喰上の水だけで溶いた顔料で描くのと違い、テンペラは顔料を卵黄に溶いたものを表面に「塗る」技法。卵黄の効果で早く乾き、絵の耐久性も上がります。また細やかな筆遣いも可能となり、細部まで精密に描くことができるため宗教画や祭壇画に多く用いられました。

壁画を描くのに適したフレスコ画に対し、テンペラ画は木板に多く描かれました。ルネサンス後期にキャンバスが広く使われるようになるまで、木板が最も一般的な支持体だったのです。壁面にテンペラ画で描く場合もありましたが、テンペラ技法は壁面を乾かしてから塗るため顔料が漆喰に浸透せず、耐久性がフレスコ画に及びません。壁画には耐久性に富むフレスコ画が多く用いられることになりました。

フレスコ画の歴史

フラ・アンジェリコ:受胎告知、1437-46年頃

先史時代

文字が発明される前の先史時代、当時の人間は壁に絵を描くことで想いを伝えていました。紀元前17,000年頃に描かれたフランス南西部のラスコー洞窟や紀元前14,000~12,000年頃に描かれたスペイン北部のアルタミラ洞窟の動物の絵は有名です。

これらはフレスコ画の技法を意図して描かれたわけではありませんが、石灰石の鍾乳洞壁が生乾きの漆喰の役割を果たすことで「天然のフレスコ画」となり、当時の色彩が現代に残されているのです。

古代

漆喰の表面に顔料を塗るフレスコ画の技法は、古代から世界のさまざまな地域で用いられてきました。古代エジプトでは死後の世界や神々・ファラオの業績や日常生活の場面を、王の墓や神殿の内部に描きました。エジプトのフレスコ画は、その乾燥した気候によって5千年後の現在でも色鮮やかな姿で残されています。

古代ローマでも、フレスコ技法で壁面を飾っていました。ローマの都市・ポンペイでは、79年のヴェスヴィオ火山の噴火で都市がまるごと埋もれてしまい、19世紀に発掘されるまでそのままだったため、保存状態が大変良いフレスコ画が発見されました。

フレスコ技法はシルクロードを通って日本にも伝わったと言われており、キトラ古墳、高松塚古墳の壁画はフレスコ画で描かれています。

中世

中世キリスト教の時代、ヨーロッパ各地で教会や修道院に宗教的なテーマを描くのにフレスコ画は広く用いられました。教会内の装飾は、文字が読めない信者に教義を伝える重要な手段だったからです。

神聖で厳粛な雰囲気を出すため、平面的で抽象的に表現されているのが特徴です。しかしフィレンツェの画家・ジョットの登場で、人物が徐々に写実的に描かれるように変化してきました。1305年にジョットが描いたパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画、聖母マリアとキリストの生涯はこの時代を代表する作品です。

イタリア・ルネサンス期

14世紀~16世紀、イタリア・フィレンツェで花開いたルネサンスはフレスコ画の黄金時代ともいえます。この時期、イタリアの都市国家や教会、メディチ家などの貴族は積極的に芸術を奨励。権威と富の象徴として大規模なフレスコ画を次々と画家に依頼しました。こうしてミケランジェロ、ラファエロ、ダ・ヴィンチらの後世に残るフレスコ画の傑作が生まれます。

ルネサンス期は絵画の技術革新が起こった時期でもあります。線遠近法が確立され、解剖学によって人体表現がより写実的になりました。

また、ネーデルラントの画家ファン・エイクが油彩技法を完成させ画材の面でも大きな革新が起こります。油彩絵具はテンペラに比べて乾きが遅いため色を重ねることができ、さまざまなテクニックが使えるため、ルネサンス期後期にはテンペラ画に変わって油彩が広く用いられるようになりました。

支持体も板に替えて手軽なキャンバスを使用するようになります。キャンバスを使えば壁に直接描く必要もなくなるため、労力や経済的な側面からフレスコ画は次第に敬遠されるようになっていきました。

近代〜現代

ルネサンス期以降下火になったフレスコ画ですが、20世紀に入って「メキシコ壁画運動」でフレスコ画が多用され、再注目されます。メキシコ壁画運動とは、メキシコの芸術家たちが社会的・政治的メッセージを広く伝えるためフレスコ画の技法で大規模な公共の壁に描かれたもの。ディエゴ・リベラ、ホセ・クレメンテ・オロスコらが活躍しました。

現代日本では、イタリアで伝統的なフレスコ技法を学び現代的な感性を反映した絹谷幸二が独自のスタイルを確立し高く評価されました。

現代のフレスコ画は公共空間や建築装飾として再び注目されています。

フレスコ画の技法

ディオニシウス:フェラポントフ修道院『ミラの聖ニコライ』

ひとくちに「フレスコ画」といってもさまざまな技法があります。

ここでは代表的な技法を紹介します。

ブオン・フレスコ

イタリア語で「良いフレスコ」という意味の「Buon Fresco」。湿った漆喰に顔料を塗っていく方法で、乾くと顔料と漆喰が一体化するため非常に堅牢で耐久性が高く、色あせもしにくいフレスコ画の究極の技法です。

反面、漆喰が乾かないうちに描き終える必要があり、一度乾いた部分の修正は困難なため、事前の細かな準備や計画が必要になります。

ブオン・フレスコの制作は、壁面の準備からはじまります。まず壁を平坦化するため漆喰を粗く塗り、下地をつくります。下地が乾燥した後、その上から漆喰を仕上げ塗りします。次に紙に描いた実物大の下絵にトレースするため目打ちや釘などで穴を開け、下絵を壁に転写します。そして一日で作業できる部分を計画して、その部分に湿った漆喰を塗り、漆喰が乾く前に水で溶いた顔料で描いていきます。

この繰り返しで大きな壁画を仕上げていくのですが、膨大な手間と時間がかかり、乾いてしまうと修正がきかないため、描いている途中で「ここをこうしたい」「こっちの方がいいんじゃないか」などという自由は効きません。ダ・ヴィンチはこの面からフレスコ画を嫌ったと言われています。

フレスコ・ セッコ

「セッコ」はイタリア語で「乾いた」を意味します。その言葉通り、乾いた漆喰に水性の顔料で描かれる技法。ブオン・フレスコと異なり乾燥した漆喰の上に描くため、顔料は壁の表面のみに付着します。そのため顔料が剝がれやすく、ブオン・フレスコと比べると耐久性が劣ります。

一方フレスコ・セッコのメリットは、漆喰が乾燥してから描くために制作時間の制約が無く、簡単に修正ができるという柔軟性です。

フレスコ・セッコの技法は古代エジプトやギリシアの壁画にも見られ、中世からルネサンス期にも用いられましたが、ブオン・フレスコほど普及しませんでした。しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はフレスコ・セッコ技法で描かれています。

ズグラフィート

壁面に絵を描く方法として、「ズグラフィート」という技法があります。イタリア語で「引っ掻く、削る」という意。壁面に漆喰や塗料を塗り、乾いたらその上に異なる色の漆喰や絵具を塗ります。

上に塗った層がまだ乾かないうちに下の層を削り出します。削り出し技法は細かい模様や図柄を表現することができ、建物の装飾によく用いられました。また、陶器の装飾にもよく見られます。

フレスコ画の有名な画家

ジョット・ディ・ボンドーネ

ジョット・ディ・ボンドーネ

13世紀から14世紀にかけて活躍したイタリアの画家であり、建築家でもあるジョットは、中世からルネサンス期への過渡期に革命をもたらした芸術家です。中世の平面的で硬直したスタイルから脱却し、登場人物の表情や感情を表現しました。また初期の遠近法を採用し、絵画に奥行きをもたらしたことでも知られます。

アッシジの聖フランチェスコ聖堂の聖フランチェスコの生涯を描いたフレスコ画や、パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂の聖母マリアの物語を描いたフレスコ画、フィレンツェのサンタ・クローチェ聖堂のフレスコ画など、教会の大規模なフレスコ画も多く手掛けています。特に「ユダの接吻」は中世の教義的な絵画とは違いドラマチックに描いていることから、まさにルネサンスの先駆けとして有名な絵です。

ミケランジェロ・ブロナローティ

ミケランジェロ・ブロナローティ

ルネサンス期の巨匠としてダ・ヴィンチと並び称されるミケランジェロは、彫刻家、画家、建築家として才能を遺憾なく発揮しました。ミケランジェロの作品はルネサンス期の頂点とされており、後の芸術家にも多大な影響をあたえました。

中でも創世記の物語や旧約聖書を題材にしたヴァチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画は、ミケランジェロのフレスコ画の代表作として有名です。1508年から1512年にわたって制作されたこの巨大なスケールの天井画は、ミケランジェロの解剖学の知識、彫刻家としての経験が存分に発揮されたリアリティ溢れる壮大な作品。特に「最後の審判」は有名。観る者はその迫力に圧倒されます。

レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチ

15世紀から16世紀、イタリアのルネサンス期に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチは、絵や彫刻のみならず、建築、工学、数学、解剖学、都市計画など多岐にわたる分野で活躍し、後世の発明や科学の進歩に大きな影響を与えました。

ダ・ヴィンチはフレスコ画も手掛けていますが、漆喰が乾くまでに瞬間的に仕上げなければならないフレスコ画を好んでいなかったと言われます。描きながら思考し、追加、修正を行っていくダ・ヴィンチの制作方法とフラスコ画とは相いれないものだったのです。有名な油彩画「モナ・リザ」も、死ぬまで加筆を続けていたほどでした。

ダ・ヴィンチが残したもっとも有名なフレスコ画は、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の修道院の食堂の壁に描いた「最後の晩餐」です。ダ・ヴィンチは下地に漆喰を用いましたが、テンペラ技法で描きました。この方法は鮮やかな発色と細部の修正を可能にしましたが、ブオン・フレスコ画に比べると耐久性に劣っていました。「最後の晩餐」はダ・ヴィンチ存命中からすでに痛み出してしまったようで、「美術家列伝」を著したジョルジョ・ヴァザーリが1566年にこの作品を観たときには「汚れしか見えない」と残したほどでした。

ダ・ヴィンチはそれ以外にもフレスコ画の制作を契約していましたが、そのほとんどが未完成のままでした。 

高精細なレプリカを日本でも鑑賞可能!

その耐久性のおかげで、現代でもルネサンスの息吹を生き生きと感じ取ることができるフレスコ画。礼拝堂の天井や壁面いっぱいに描かれた迫力のある実物を体感したいところですが、残念ながら現地に出向かなければ鑑賞することができません。

しかしそれら傑作の高精細なレプリカを、日本で見ることができるのです。

大塚国際美術館

大塚国際美術館

出典:Wikimedia commons

徳島県鳴門市の大塚国際美術館は日本最大級の展示スペースを有し、世界の名画を特殊技術によって原画を忠実に陶板で再現した美術館。ここでフレスコ画の傑作も鑑賞することができます。陶板はキャンバスや壁に比べ色も経年劣化せず、大きさも原寸大に再現されているため、本場の迫力をそのまま味わうことができるのです。

ミケランジェロによるシスティーナ礼拝堂の天井画および壁画やジョットのスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画は礼拝堂の空間ごと原寸で再現され、立体的な展示を楽しめます。

レオナルド・ダヴィンチの「最後の晩餐」は、1999年に行われた修復前の姿と修復後の姿が向かい合せで展示されており、レプリカならではの比較鑑賞ができます。

また、ラファエロの「アテネの学堂」や古代ローマのポンペイなどフレスコ画の歴史に残る傑作も見ることができます。

まとめ

古代から長い歴史を持つフレスコ画。その耐久性は、500年前の作品でも鮮やかな色彩で遺されているほどです。準備の煩雑さと時間の制約からルネサンス以降下火になってしまいましたが、近年公共空間の装飾として再び注目を集めている技法です。

実物は海外でしか見ることができませんが、日本でもレプリカで実物大の迫力ある壁画を見ることができます。また、現代でもフレスコ画の技法で独自の世界を築く絹谷幸二らの作家も見逃せません。この機会にフレスコ画の魅力を体感してみてはいかがでしょうか。

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