現代美術家の1人ダミアン・ハーストは、多様な作風で知られるアーティストです。「死」をテーマにしたシリーズや、ポップなイメージの絵画など、話題性のある作品を数多く制作しています。
芸術の域にとどまらずサイエンスの分野からも注目を浴びるダミアン・ハーストは、どんな魅力や特徴を持つアーティストなのでしょうか。
現代美術家ダミアン・ハーストについてアートリエ編集部がわかりやすく解説します。

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ダミアン・ハーストとは
ダミアン・ハーストは、英国出身のアーティストです。現代アートの風雲児と呼ばれ、イギリスのアーティストたちを牽引してきました。
ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ在学中に開催したグループ展「Freeze」が大評判を呼び、ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)のひとりとして注目されました。60年代のポップアートの血脈を継ぐアートシーンを担う芸術運動は、世界中を巡回し、ダミアン・ハーストの名は世界に知れ渡りました。
動物をホルマリン液に漬けたダミアン・ハーストのシリーズは、1990年代を代表するアートに。生と死を冷徹に見つめるダミアン・ハーストの目は、鑑賞者に強いメッセージを伝えています。
キャンバスに点を並べたドット・ペインティングもダミアン・ハーストの代表作。ポップアートやミニマリズムを感じる作品も多く、常に注目を浴びるアーティストになっています。作品に破格ともいえる値段がつくことでも有名です。

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ダミアン・ハーストの来歴
現代を代表するアーティストのひとり、ダミアン・ハーストの来歴を紹介します。
生い立ち
ダミアン・ハーストが生まれたのは1965年6月7日。イギリスのイングランド南西部の商業都市、ブリストルが生まれ故郷です。
幼少期はお世辞にも幸福とはいえず、両親が離婚し、ダミアン・ハースト自身も万引きで逮捕歴があるなど、荒れた少年期だったようです。学校の成績も決して良いとはいえなかったダミアン・ハーストは、幼いころから「死」に興味をもっていました。斬首された遺体と撮った写真を残したのも10代のことです。
成人するころにはパンクミュージックに興味を持ち、後年作品に登場するセックスピストルズを愛好していたと伝えられています。
美術大学時代
学校の成績がいまいちだったダミアン・ハーストは、1986年から1989年まで、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ芸術科で学びました。
大学時代のダミアン・ハーストは水を得た魚のように活発に活動し、学生たちとコミュニティを作ったり、数々のアートイベントも企画しています。
夏休みシーズンには、リーズの死体安置所でアルバイトに参加。のちに「死」をテーマにした作品をつくるダミアン・ハーストにとっては貴重な経験になりました。
自主企画展覧会「Freeze」を主催
ロンドン大学在学中の1988年7月、ダミアン・ハーストは「Freeze」というタイトルでグループ展を開催。ロンドン南東部にある廃屋となった倉庫で行われた美術展は、フィオナ・レイ、サラ・ルーカスなど新進気鋭のアーティスト16人が参画。挑発的なテーマが際立つ美術展となりました。
新しい芸術の誕生として注目された「Freeze」によって、ダミアン・ハーストは「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」の立役者と呼ばれるようになります。YBAの存在は、イギリスの若手アーティストの国際的な地位を高めることに貢献し、ダミアン・ハースト自身の知名度も飛躍的に上がりました。
初の個展を開催
1988年の「Freeze」が話題になったあと、1990年には「近代医学」展、「ギャンブラー」展を開催。同年、有名コレクターのチャールズ・サーチによってハースト作≪千年≫が購入されました。『千年』は、黒枠のガラスケースの中に牛の頭やウジ虫、害虫駆除の機械を設置し、現代のライフサイクルを表現した斬新な作品です。
ダミアン・ハーストは大学の閉鎖性に批判的で、公的な機関に頼らず若手アーティストが作品製作をできる環境を整えるのに熱心でした。メディアの操縦にも長けており、早くから世間やコレクターから注目され、さまざまな制作を可能にする資金力の確保にも熱心であったといわれています。
その勢いを保ったまま、ダミアン・ハーストは1991年に個展を開きました。ロンドンの空き店舗を舞台に、ダミアン・ハースト自身がすべてをプロデュースした「愛の内と外」、また1992年の「鮫」は、チャールズ・サーチの援助によって開催されました。
「ヤング・ブリティッシュ・アート(YBA)」というキャッチフレーズをダミアン・ハーストらに与えたのもチャールズ・サーチで、彼の後援で「センセーション」展も実施されています。
ヴェネツィア・ビエンナーレに出展
チャールズ・サーチというよき理解者を得たダミアン・ハーストは、1990年代のアート界における主役のひとりとなりました。
1993年、≪母と子、分断されて≫をヴェネツィアのビエンナーレに出展。鑑賞者に衝撃を与える作品として、脚光を浴びました。
生と死の生々しい表現はダミアン・ハーストの代名詞となり、1995年にはターナー賞を受賞。イギリス人、およびイギリス在住のアーティストに送られるターナー賞の受賞者になったことで、ダミアン・ハーストの評価も高まりました。
影響力のある現代アーティストとしての地位を確立
イギリスのアート界を活性化させたダミアン・ハーストは、もっとも影響力のある現代アーティストのひとりとして活躍を続けています。
キャリア初期にダミアン・ハーストの知名度を盤石のものにしたチャールズ・サーチとの関係は破綻したものの、作品の購入者は列をなすほどでした。
2008年9月15日と16日に、仲介者を使わないサザビーズオークションを行い、211億円の売り上げを記録。金融市場が荒れる中で、ダミアン・ハーストの作品は予想以上の価格をつけ、価値ある現代アーティストとしての地位を確立しました。
最近の活動と現在の評価
ダミアン・ハーストは、ポップアートの活気、90年代のロックやサブカルチャーと連動するアート運動として、さまざまな世代から人気を得ています。
一方でグロテスクともとらえられかねない表現や、生々しすぎる展示など、論争の的になることも多々あります。論争と成功、それはダミアン・ハーストのキャリアと切っても切れないキーワードになっています。
21世紀に入ってからもダミアン・ハーストは論争をものともせず活動を続け、2012年には大回顧展、2017年にはヴェネツィアで「難破船アンビリーバブル号の宝物」展を行っています。
近年は「桜」をテーマにした明るい作風が注目を浴びました。円熟の年代に入ったダミアン・ハーストの今後に、乞うご期待!
ダミアン・ハーストの画風やエピソード
独特の世界観を展開し、美術界の風雲児と呼ばれるダミアン・ハースト。
彼の画風やエピソードを紹介します。
生と死をテーマにした作品
防腐液剤に入った動物や、切断された牛や羊が使われたこともあるダミアン・ハーストの作品。生と死の明暗を露骨なまでに際立たせる表現方法によって、生命体が逃れられない死という運命を、見る人に感じさせます。
大型動物だけではなく、ハエや蝶、ウジ虫などの小動物もダミアン・ハーストにとっては大切なテーマであり、芸術と生死のテーマを統合させようとしたハーストの心意気が感じられます。
医学的モチーフと科学の影響
ダミアン・ハーストは「自然史(Natural HIstory)」シリーズでサイエンスとアートを結び付けましたが、医学もまた彼のテーマとなりました。
薬の瓶や箱をカラーやフォルムに応じてキャビネットに並べた≪Pharmacy(薬局)≫は、ミニマリズムやポップアートの影響を受けたインスタレーション作品として人気を博しました。薬の効能を過信する現代人へのメッセージにも受け取れます。
≪Pharmacy(薬局)≫を内装にしたレストランを開業したこともあります。
物議を醸した展示と批判
斬新な表現方法が激賞される一方、ダミアン・ハーストの独特の作風はこれまでも論争の対象になってきました。
とくに動物愛護の精神が息づくイギリスでは、ホルムアルデヒドに漬けた動物の展示が批判の対象に。こうした作品につけられたタイトルの冷徹さとともに、グロテスクと批評されることもあります。
ビジネス的アプローチとマーケティング戦略
無名のアーティストであった学生時代から、ダミアン・ハーストはビジネス面でも優れた手腕を発揮しました。
展示を行う場所や展示方法、テーマにいたるまで、メディアとの付き合い方がとても巧み。良くも悪くも、各方面から注目されるマーケティング戦略を展開してきました。動物をテーマにした作品以外にも、8600個以上のダイヤモンドを使った≪For the Love of God≫は話題を呼びました。この作品は、ダミアン・ハースト自身が75億円を提示。売名行為に等しいという批判もあります。
アートレビュー誌によるアート界で影響を持つ人物ランキングで1位になったこともあるダミアン・ハースト。たびたび話題を呼ぶダミアン・ハーストの活動は、人々の目をアートに向け、後進たちの活躍に寄与しているといえます。
ダミアン・ハーストの代表作
論争を巻き起こすことも多いダミアン・ハーストの作品。彼の代表作を解説します。
生者の心における死の物理的不可能性
1991年に発表された≪生者の心における死の物理的不可能性≫。3m超の鮫が、まるで海の中で泳いでいるかのようにホルマリンに漬けられ、ガラスケースの中に納まっています。
「死からは逃れられない。そう悟ったときのことを覚えている」と語ったダミアン・ハースト。死ぬべき運命の生物が、ダミアン・ハーストの手によって長く生き続けるアートになった作品です。

出展:Wikipedia
Pharmacy(薬局)
リアルな薬局のようなインスタレーション≪Pharmacy(薬局)≫。ダミアン・ハーストは、「アートは実生活から切り離せないもの」という概念を抱いており、痛みや病気に効用があるとされる薬がキャビネット上に整然と並べられています。薬の効果を盲目的に信じる現代人への警告、と解釈する批評家もいます。
虫よけのアイテムが天井から吊るされて、生と死が紙一重であることも示しているハーストらしい作品です。

出典:tate.org
母と子、分断されて
1993年のヴェネツィア・ビエンナーレに出展され話題になった≪母と子、分断されて(Mother and Child Divided)≫。3mを超える母牛の子牛、2つのパーツから構成される作品は、ハーストらしさが凝縮しています。
溶液の透明なターコイズの色の中から浮かび上がる動物は、ダミアン・ハーストが評価を不動のものにした「自然史(Natural History)」シリーズの代表作。1995年に受賞したターナー賞もこちらの作品が評価されたことが理由のひとつとされています。
脆さや壊れらしさを内包した作品を作りたかったと語ったダミアン・ハースト。その思いが十全に表現された作品となりました。

出典:Wikipedia
桜シリーズ
どこか哲学的で科学的な要素を感じる作品が多かったダミアン・ハーストが、2021年に発表した「桜シリーズ」。107点からなる同シリーズ、ダミアン・ハーストのこれまでの作品とは趣を異にする明るい色遣いが印象的です。
華やかさがある一方で、桜が持つ儚さも感じられるところはこれまでのダミアン・ハーストのスピリットを踏襲。世界中がコロナ禍による閉塞感を感じていた中で発表された桜シリーズは、多くの人の心を捉えました。ダミアン・ハーストの新境地といったところでしょうか。

出典:muca
ダミアン・ハーストを収蔵する主な美術館
現代社会における生と死を感じることができるダミアン・ハーストの作品は、どの美術館で鑑賞できるのでしょうか。彼の作品を所蔵している美術館を紹介します。
サーチ・ギャラリー(イギリス)
無名だったダミアン・ハーストの才能に着目したチャールズ・サーチ。彼の膨大なコレクションが美術館となっているのが、サーチ・ギャラリーです。YBAと呼ばれた英国の若手アーティストたちの作品を中心に、イギリスのアート界を牽引する作家たちの活躍を実感できます。
ダミアン・ハーストの作品は、初期の傑作≪生者の心における死の物理的な不可能性≫や、20世紀に入ってから代表作となったスポット・ペインティングの作品も多数。
ダミアン・ハーストとイギリスの現代アートを構築したアーティストたちの作品と鑑賞できます。
テート・モダン(イギリス)
ダミアン・ハーストの代表作≪Phermacy≫や、自然史シリーズの≪群れから離れて(Away from the Flock)≫を所蔵するテート・モダン。20世紀以降のアート作品が並ぶテート・モダンで、ダミアン・ハーストの作品が美しく展示されています。
まとめ:鑑賞者に「生と死」という深いテーマを考えさせるダミアン・ハーストの作品たち
YBAの立役者として数々の話題作を世に送り出してきたダミアン・ハースト。論争の対象となるような素材やテーマを駆使し、イギリスや世界のアーティストを牽引してきました。
メディア戦略にも優れ、作品が高額になることでも知られています。経済的にもっとも成功したアーティストですが、2021年に新境地となる「桜シリーズ」を発表するなど、現在も旺盛な美術活動を展開しています。
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