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2024.06.21

メゾチントとは?歴史や特徴、有名作家についてわかりやすく解説します!

メゾチントとは?歴史や特徴、有名作家についてわかりやすく解説します!

「メゾチント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

17世紀から大ブームになったメゾチント。その名を聞いたことがない人も、メゾチント作品をどこかで目にしたことがあるかもしれません。

「メゾチント」は銅版画の技法のひとつです。独特の世界観や雰囲気を醸し出す方法として、ヨーロッパを中心に普及しました。20世紀に入ってからは、日本人作家によるメゾチントの傑作が生まれています。

本記事ではメゾチントの定義や歴史、有名作家について詳しく解説します。

メゾチントとは?

ジョン・エヴァレット・ミレー「洪水」1897

メゾチントは「mezzotint」と書きます。フランス語では「manière noire(黒の方法)」と呼ばれています。

銅板の面にロッカー(フランス語ではベルソー)という道具で縦横斜めの交錯を作り、その線をつぶしたり削ることで全体像を仕上げていきます。

黒の明暗が特徴的で、モノクロの写真のような雰囲気があります。

メゾチントの歴史

メゾチントという技法が生まれたのは、1642年のことでした。

オランダで活躍していたドイツの彫刻師ルードヴィッヒ・フォン・シーゲンによって生み出されたメゾチントは、彼から技法を習得したカンバーランド公ルパート(ルプレヒト)によって改良が加えられました。

カンバーランド公ルパートによって、メゾチントは急速にイギリスで普及。オランダ絵画においても、複製法として好まれました。

写真技術の発達と普及で19世紀後半に廃れたメゾチントは20世紀初頭に復活。長谷川潔をはじめとする版画作家によって脚光を浴び、現在にいたります。

メゾチントとアクアチントとの違い

銅版画には、アクアチントという方法もあります。メゾチントとアクアチントには、どんな違いがあるのでしょうか。

アクアチントは、表面的な加工をして表現をするという点はメゾチントと共通しています。メゾチントが銅板を彫ったり削ったりするのに対し、アクアチントは松脂の粉末を銅板に振りかけて熱で固定します。酸やニスを使って濃淡を出すことで、水彩のような効果を生むこともあります。

アクアチントは18世紀半ば、フランスのジャン・バティスト・ル・プランスによって発明されました。

アクアチントによる傑作を残した巨匠には、スペインの画家ゴヤがいます。ゴヤの《ロス・カプリチョス》はアクアチントの代表作、彼の内面の複雑性がモノクロで見事に表現されています。

メゾチントの特徴

ロッカーを使っている様子

出典:Wikimedia commons

独特の方法で製作されるメゾチントには、どんな特徴があるのでしょうか。メゾチントの作品をより楽しむために、特徴を知っておきましょう。

滑らかなトーン

黒と白の諧調によって表現されるメゾチント。「Mezzo(中間)」という言葉通り、微妙なニュアンスも濃淡によって巧みに描かれるのが特徴です。

落ち着きのある滑らかなトーンで統一されたメゾチントの作品は、「ベルベットのような」といわれる質感があります。

深い黒

メゾチントはフランス語で「マニエール・ノワール(黒の方法)」と呼ばれます。その名前からもわかるように、深く豊かな黒色が全体を引き立てる役割を果たします。

さまざまなニュアンスの黒が駆使されているところが、メゾチントの最大の見どころ。

モノクロの表現力がモノをいうメゾチントは、白黒の写真を見ているような効果をもたらします。

手間がかかる

黒から白までの諧調が見事なメゾチントは、製作に手間がかかる技法。また独自の画材も必要とします。

メゾチントを始めるにはまず「目立て」という作業を根気よく行わなくてはなりません。

目立てとは、銅板にロッカーという道具で縦、横、斜めの傷を入れていくことです。斜めの線は対角線の2方向に栓を入れる必要があり、とても手間がかかります。目立てが終わった銅板は、まるでサンドペーパーのような状態になります。

先端がへら状になったスクレーパーで削ったり、トーンの調整をするバニッシャーを使ってつぶしたりしながら、表現に変化をつけていきます。これもかなり根気のいる作業です。製版した絵にインクを使用して刷ると、手つかずの部分は真っ黒に、目立てで完全に削ったところは白くなり、削り方やつぶし具合で中間トーンが表現されます。

メゾチントは小品であっても大変な手間がかかるアートなのです。

有名なメゾチント作家

メゾチントは17世紀に発明され、19世紀後半に廃れてしまいました。しかしその独特の技法が見直され、20世紀初頭に復活。有名な作家がメゾチントの傑作を製作しています。

有名なメゾチント作家を紹介します。

長谷川 潔(1891-1980)

メゾチントの作家としてまっさきに名前があがる長谷川潔。大正から昭和時代にかけて活躍した版画家です。

横浜市に生まれた長谷川潔は麻布中学校を卒業後、黒田清輝に素描を、藤島武治に油絵を学びました。1913年頃に文芸誌『仮面』の同人となって以降は、創作版画を次々に発表。1924年頃に廃れていたメゾチントの技法に独自の近代的表現を加え、メゾチントの作家として知られるようになりました。

長谷川潔のメゾチントは、自然の神秘や哲理を反映させた格調高い静物画が有名です。画面から漂う静謐さは他に類がないといわれ、世界一級の版画家として数々の賞を受賞しました。

1935年にはフランスのレジオン・ドヌール勲章、1966年にフランスの文化勲章を受章。

代表作には《南仏古村》《オランジュと葡萄》などがあります。

浜口 陽三(1909-2000)

浜口 陽三

和歌山県生まれの浜口陽三は、若いころから小林万吾に洋画を、建畠大夢 に彫刻や造形を学びました。東京美術学校塑造科に在学中、梅原龍三郎 の勧めで渡仏。水彩画や油絵の作品を残しました。

第二次世界大戦後、銅版画の製作を開始。1955年頃、カラーのメゾチント技法を開発しました。野菜やフルーツが、暗色の背景から浮かび上がるような独特の画風で、世界的に認められる版画家となりました。

第1回東京国際版画ビエンナーレ展で国立近代美術館賞、サン・パウロ・ビエンナーレ展で版画最優秀賞を受賞するなど、多数の受賞歴があります。

1984年にはサラエボ冬季オリンピック記念ポスターを作成しています。

代表作は《パリの屋根》《四つのサクランボ》《西瓜》など。浜口陽三の作品は、東京にあるミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで鑑賞できます。

まとめ:黒白の諧調を楽しむメゾチントは日本にも傑作が多数!

17世紀に世に出たメゾチントは、黒白の諧調が魅力的な技法です。19世紀に廃れていたメゾチントは、20世紀に入って日本人作家によって復活。近代的な作風を持つ傑作が数多く生まれました。

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